遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ブラッド・ブラザー/ジャック・カーリイ

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ブラッド・ブラザー ジャック・カーリイ  三角和代 (訳)  (文春文庫)


きわめて知的で魅力的な青年ジェレミー。僕の兄にして連続殺人犯。彼が施設を脱走してニューヨークに潜伏、殺人を犯したという。連続する惨殺事件。ジェレミーがひそかに進行させる犯罪計画の真の目的とは?強烈なサスペンスに巧妙な騙しと細密な伏線を仕込んだ才人カーリイの最高傑作。


海とはほとんど面していないアラバマ州フロリダ州の北西の位置)で、
わずかにメキシコ湾に面している港町がモビールという小さな街。
その警察署の刑事に、とある事件の解決のためにニューヨークからお呼びがかかる。
その刑事が若き主人公カーソン・ライダー。

彼と彼の兄ジェレミーは、悲惨な幼少期を過ごし、ジェレミーは弟を守るために父親を殺害。
生涯を矯正施設で終えるはずだったそのジェレミーが、なぜか施設を出所し、
その後、ニューヨークで女性ばかりを狙った猟奇殺人事件が連続して勃発していた。

最初の被害者が残したダイイング・メッセージのような映像に、モビール市警のカーソンの名前が残されていた。
「カーソン、本当にごめんなさい」

連続殺人事件の容疑者は、カーソンの兄ジェレミーだったが、
二人の関係を知るものは、最初の被害者である高名な矯正施設の女所長ヴァンジーなど限られた人たちだけ。
なので、NY市警の刑事たちは、田舎から出てきた若い刑事が事件解決のために何ができるのかと、
ことに若くて切れ者の女警部補アリスからは、徹底的に馬鹿にされじゃまもの扱いをされる。

身分を隠しつつ、カーソンは兄の犯罪を捜査するうち、兄の犯罪傾向とは違和感があるものを嗅ぎつける。
その違和感をはっきりするために、裏が真っ白な肉屋の包装紙(ブッチャーペーパー)のロールを長く長く用いて、
真の謎の殺人犯のプロファイリングのために、カーソンは手がかりを書き込んでいく。
その空白が埋まったロールペーパーから立ち上がってきたものとは・・・。

その間に、捜査パートナーであるニューヨーク市警のウォルツ刑事は、
あろうことかカーソンの周辺を捜査し、ジェレミーとの関係に疑惑を抱きはじめる。


父親から虐待され、その状況から母親が守ってくれないという図式は、
わが国でもよく目にする事件であるが、幸運にも命まで取られなかった少年のその後は知られることがない。
虐待による魔性をまとった少年が、どのように成長(あるいは後退)していくのか、
それを軸に「ブラッド・ブラザー」のストーリーは展開していく。

いまやミステリーは、家族の肖像を描いたものが多くを占め、
この作品にも、デリケートな関係の危うい家族が何組か登場し、物語を離れて考えさせられる部分が多くある。

その一方で、連続猟奇事件を縦糸に、何組かの親子兄弟の関係を横糸に編まれた構成に安定感があり、
初めて出会った作者のジャック・カーリイの楽しませ方にぴったりフィットしてしまう。
物語の展開は緩急があり、エンターテイメントのツボを心得たメリハリを感じて、最後の最後まで楽しめる。

このカーソン刑事シリーズは、本作で4作目だという。
1作目から順に読めば良かったのだろうが、嬉しいことに読むべき作品が3冊増えたのであった。