遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

私も「術後せん妄」の被害者です

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東京足立区で、手術後の患者の胸をなめたなどとして、準強制わいせつに問われた乳腺外科医(43)に対し、東京地裁は無罪とする判決を言い渡した。

患者は、「術後せん妄」による幻覚体験の可能性があるというのが無罪の理由の一つだった。

「せん妄(もう)」は、全身麻酔による手術の直後などに患者に起きる一時的な意識障害、脳機能不全のことである。

■せん妄

無罪となった裁判についてはともかくも、警察や検察は「術後せん妄」についてよく知らなかったのでは?という次元で、すでに無罪という結果は見えていたのかもしれない。

実は私も、父親の「術後せん妄」に付き合わされたことがあった。

20年ほど前、全身麻酔を施して手術をした父親が、手術後に錯乱状態になったことがある。近所の葬儀の手伝いに行っていた私に妹から緊急の連絡が入って、父親の付き添いを代わってほしいと言ってきた。

術後目を覚ました父親は、点滴の管を抜いてどこかへ出かけようとしてベッドから飛び降りるのだった。

妹は体力的にそれを防げないからと、私が到着するまで父はベッドに縛り付けられていた。

妹に後を任された私は、父親を拘束から解放してやったのだが、「学校へ行かなければ」とかわけのわからないことを言ってベッドからジャンプしようとする。実際何度かベッドから飛び出した。

聞く耳を持たないので言って聞かせることはできないので、ジャンプの発作が起きるたびに押さえつける必要があったので、こちらはゆっくり眠ることさえできなかった。この状態がいつまで続くのだろうと怖くなってきていた。

幸い、2日ほどたって正常に戻ったのだが、「術後せん妄」の知識がなかった私と家族は、父親はこの後一生このようなことを繰り返すのではないかという恐怖に陥った。あるいは、認知症になるのではないかとも思った。正常に戻ってくれて、どんなに安どしたことか。

今思えば、「せん妄」について、担当医師や看護師に何も教えてもらえなかったことに少し怒りを覚える。

医学的な知識を持たないと、実に不安であったり恐怖を覚えたり、ときに無実の人を罰したりすることにもつながるのである。