遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

選挙2/想田和弘

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想田和弘の観察映画「選挙2」(2013年)のご紹介。

「選挙」(2007年)で、川崎市宮前区の市会議員選挙に自民党から立候補した山さんこと山内和彦は、5年後の2011年4月、再び同じ選挙区で市会議員に立候補した。

時は、3.11東日本大震災直後のことだった。

当時の川崎市放射能線量は、通常時の3倍もあったという。そんな中、脱原発を訴えて山さんは再び立候補した。今度は無所属だった。

「選挙」では、自民党の組織選挙が映画の大黒柱にあり、その大黒柱が太いけど黒かったり曲がっていたり節がたくさんあってそれはそれなりに楽しかったのだが、「選挙2」は、何のしがらみもない選挙戦だった。

山さんは、前回の選挙と全く逆のことをした。選挙活動費用は8万円ほど。ただし、供託金は50~60万円は別途必要で、川崎市議選では600票以上獲れば供託金は返ってくるようだった。

カラーコピーで自作のポスターを作って、そこに細かい字で公約を書き、QRコードも示して自身の訴えを示すSNSへ誘導する。その他の運動は何もしない。選挙カーもなければ選挙事務所もない。街頭演説もない。4000枚まで許されている選挙用の郵送はがきは、奥さんに手伝ってもらって送っていた。投票日の前日に、駅前(裏だったけど)で防護服を着て1時間程度の演説を行なっただけだった。

私がもし選挙に出たらと考えていたシナリオがあるが、山さんが「選挙2」でやった選挙とほぼ同じ。公約もよく似ている。

前の映画から5年経った山さんは、乗り換えずに相変わらず同じ軽自動車に乗ってはいるが、かわいい子どもさんが誕生して、奥さんともども印象がずいぶん変わった。以前に比べると、二人は余裕のある生活人というイメージで、山さんは子どものために脱原発を訴えるリベラル派に変身した。自民党選挙・政治に辟易した結果のことなのかもしれない。

政治屋の政治活動とはほぼ選挙活動のことで、彼らは党推薦が欲しい金が欲しい顔出しで有名になりたい以外の願望はなく、日夜その願望に沿った活動を行っているだけのことなのだと断言してもいい。

山さんの、ほぼ金をかけない手作り選挙を、想田のカメラは丁寧にトレースする。いわゆる選挙活動という活動をほとんどしない、そんな山さんを見ているだけで、心が浄化されていくのである。

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