遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

FAKE/森達也

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FAKE
監督 森達也 
プロデューサー 橋本佳子
撮影 森達也山崎裕
編集 鈴尾啓太
製作年 2016年 配給 東風 上映時間 109分

森達也。もうずいぶん前から、顔も名前もよく知っている。顔つきより心はマイルドだなと思っている。

その森達也が15年ぶりに映画を完成させたという。それが証拠に、今各地で彼の作品「FAKE」が上映されている。私は彼の映画を見るのは初めてだ。本作は、あのゴーストライター騒動で世間を騒がせた作曲家佐村河内守を追跡したドキュメンタリー映画である。もし監督が森達也でなかったら、鑑賞しなかった。私は佐村河内守を信用していないが、森達也を信じて大阪は十三の第七芸術劇場に本作を見に行った。

取材はほぼ佐村河内の自宅マンションで行われた。チャーミングな奥さんと人の言葉を理解してるに違いないネコ(上記の画像)と彼は暮らしている。
そのマンションに何度も森は通って、ゴーストライター騒動の真相に迫る。奥さんも手話通訳のためにほぼ全編に登場する。

佐村河内のテレビ出演を依頼にフジテレビのチームが2組と、騒動の取材のために海外の雑誌社1組が自宅を訪れる。その一部始終もカメラに収められている。フジテレビの2組のクルー全員が、森達也を知らないようだった。私はそのことに心底驚いて笑ってしまった。海外の雑誌社の取材は、直接的で検察官のように鋭くて、見ている私の心は、ぐらぐらと揺れ動いた。

映画の途中で、監督は私たちをどこへ連れていくのだろうかと、不安になってしまった。はじめから森達也を100%信じているわけではなかったが、その信頼度指数は不安感で50%くらいに下げられてしまった。

膨大な取材データの切り取り方=見せられ方=編集で、私たちは監督の前に無力でしかなかった。そういう意味では、ドキュメンタリーは真実ではなく人為的なものであると言っても良かろう。そうであることは重々承知していながらも、やがてエンディングで引き付けられる結果になってしまった。約束通りに。

カメラワークと編集とによる演出に、やられてしまった。左目尻から一筋涙が流れてしまった。もちろん私の目尻である。
ネタばれになるので、これ以上は書かないことにする。近くの映画館で上映されることがあれば、全国の老若男女に見ていただきたい作品である。

本作は、全メディアによる同一方向に向かう情報操作に怒りを込めて、といったような大上段の構えを取っているわけではないが、脂ぎった怪しい風情のニセモノ(FAKE)に溢れた社会を見ることができる。現実にも、いろいろ見ているのだけれど…。

チャーミングなネコを飼いたくなった。