遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

雨月物語/京マチ子

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日本の代表的女優京マチ子さんが亡くなられた。
彼女の代表作ともいうべき「雨月物語」(監督・溝口健二)のレビューを再掲する。

謹んでご冥福をお祈りする。



監督: 溝口健二 
製作: 永田雅一 
原作: 上田秋成 
撮影: 宮川一夫 
作詞: 吉井勇 
音楽: 早坂文雄 

出演: 


この作品を見だしてすぐ、芥川龍之介の「芋粥」を連想してしまった、
「今昔物語」から芥川が古典翻訳したのが「芋粥」、
上田秋成も古典から「雨月物語」を起こしているので、
そういう既視感を抱いても不思議ではないのだろう。

映画「羅生門」、監督黒澤明、主演京マチ子森雅之、撮影宮川一夫
監督を溝口健二に変えただけで、主演もカメラマンもそのままで、
芥川の書き起した「今昔物語」の話を、上田秋成の「雨月物語」に挿げ替えて、
もうひとつの名作映画が出来上がる。

ジャン・リュック・ゴダールが、好きな監督を3人挙げてくれと尋ねられ、
「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と言ったという伝説があるそうだが、
私にとっては、本作が溝口健二と初の出会いとなった。

手漕ぎの舟に、窯出ししたばかりの焼物を積んで、
二組の夫婦が、靄(もや)のかかった湖面を滑るように往く。

舟の行く手には、彼らの希望の地が、
焼物を売って手に入る、幸せが約束された土地が待っている。
静かに舟は滑って行くが、スリリングな胸騒ぎが去来する。

光る湖面をバックに、湖岸のフォトジェニックな1本の木の下で、
睦みあう男女、京マチ子森雅之
その幻想的な光景のなかの美しい男女を客観的に見ると、
幸福感に包まれていないのは明らかで、
しかし、遠くまで見渡せる湖の光景は、どこまでも穏やかな光にあふれている。

琵琶湖を舞台に移した溝口版の雨月物語は、
滋賀の自然とそこに住む人たちの暮らしを素材に、
川口松太郎の脚本で息を吹き込まれ、
宮川のカメラで、モノクロームの絵巻物に仕上げられている。

またここでも、やるせないほど莫迦な男たちと、
そのおかげで、生活力にあふれる女たちが描かれている。

妖艶なことでは右に出るもののいない京マチ子
彼女の一世一代の代表作であろう、無垢な健康美の水戸光子
京マチ子の対極にいる透明感のある田中絹代
猛獣使いのような凛とした気迫の毛利菊枝
じれったくなるほどの駄目男の森雅之小沢栄太郎
みな見事。
 
1953年 ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞