遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「人権」の臭いがする中村文則

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朝日新聞の8日のオピニオン紙面「選べない国で」に中村文則が素晴らしい寄稿をしていた。

私には、中村文則は「掏摸(すり)」という小説を読んだだけの人物だった。

彼は今年38歳になる小説家で、この文章を読んで彼の人となりをよく知ることとなった。寄稿した文章のタイトルは「不惑を前に僕たちは」。

以下○印抜粋の要約。◆私の感想

○大学時代に、太平洋戦争を美化する友人と議論をして、戦争の裏には利権があると批判すると「お前は人権の臭いがする」と言われた。
◆「利権の戦争」批判をして「人権の臭いがする」とは、いやはや何とも見事なひとこと。20年ほど前の大学生でさえこれだから、匿名ネット社会では、言わずもがなの現状である。私は「人権の臭いがする」人間が大好きで、そう言えば自分の人の好き嫌いの尺度でもあるなと気付かされた。

○コンビニでのバイト時代、店にいた本社の正社員にバイトの女子が「正社員を舐(な)めるなよ」と怒鳴られていて驚いた。
◆これまた15年程前のエピソードで、すでにブラック企業が「格差」を生み出し始めていた。中村は実感していたのだった。

○そのころ、バイト仲間に一冊の本を渡された。右派の本で第二次大戦の日本を美化していた。僕が色々批判すると「お前在日?」と言ったのだった。
◆差別主義者やレイシストがいなかった時代はなかったのであろうか。少なくとも私が生まれてこの方60年ほど、「この国の精神」はあまり変わっていないと思うが、どうだろう。

フロイトは、経済的に「弱い立場」の人々が、その原因をつくった政府を攻撃するのではなく、「強い政府」と自己同一化を図ることで自己の自信を回復しようとする心理が働く流れを指摘している。
◆なるほどなるほど。「強い政府」と錯覚させることが技ありでもあるのだ。しょせん掴んでも沈んでしまう「藁(わら)」のような政府なのに。

○否定意見に肯定意見を加えれば、政府への批判は「印象として」プラマイゼロとなり、批判がムーブメントを起こすほどの過熱に結びつかなくなる。実に上手い戦略である。それに甘んじているマスコミの態度は驚愕に値する。
◆プラマイゼロじゃ職務を果たしていない、という強烈なマスコミ批判だ。

○「九条」を失えば日本は決定的なアイデンティティを失う。日本はあの戦争の加害者であるが、原爆・空襲などの民間人大量虐殺の被害者でもある。そんな特殊な経験をした日本人のオリジナリティを失っていいのだろうか。これは遠い未来をも含む人類史全体の問題だ。
◆戦争法案成立以降の大きな潮流が、ここにもある。しかと受け止めたい。

そして最後に「政府への批判は弱いが他国との対立だけは喜々として煽(あお)る危険なメディア、格差を生む今の経済、この巨大な流れの中で、僕達は個々として本来の自分を保つことができるだろうか」と問いかける。

今年は、少なくとも参議院選挙が実施される。その機会に私たちは、政権与党の真の思いをきちんと認識し、ノーを突きつけるべきだという思いを新たにする。