監督 アンジェイ・ワイダ
脚本 アンジェイ・ワイダほか
原作 アンジェイ・ムラルチク
出演者 マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ
音楽 クシシュトフ・ペンデレツキ
撮影 パヴェウ・エデルマン
日本公開 2009年12月5日
上映時間 122分
カティンの森でのソ連軍によるポーランド将校の大虐殺の悲劇が、この作品の中心をなす。そして、その悲劇の主人公となり、銃殺されるまでの日々を手帳に克明に記録したポーランド軍のアンジェイ大尉と、その家族の悲劇がもう一つの中心をなす。
同じく、アンジェイ大尉の妻アンナは夫と義父を奪われ、娘のニカは父親と祖父を失ったことになる。
そしてこの家族と何らかのつながりがある人たち、軍の大将やその妻、カティン送りを免れた部下の中尉、カティンで犠牲になった中尉とその姉妹、アンナのパルチザンの甥などの悲劇が詩的にパッチワークのように描かれる。
アンジェイ・ワイダは、救いようのない悲劇の時代に生きた人たちを、最期まで威厳ある美しい人間として描く。そのワイダの映像美に惹かれる。
ことに、登場する女性たちの美しさが印象的である。
たとえば、大将の妻役の女優の貫禄のある姿と存在感は、「第三の男」のアリダ・ヴァリを彷彿とさせる優美さだ。
「カティンにて非業の死」と刻印された兄の墓石を作るために、ブロンドの髪を切って売った中尉の妹の凛々しさに感動する。
ワイダは、カティンの森で発掘されたおびただしい死体を映した記録フィルムをこの映画の中で、相当の時間を投じて紹介している。しかし、まぎれもない事実を示した証拠フィルムよりも、美しい家族や美しい女性たちの悲しみを淡々と描くことによって、戦争の不条理を伝えることに成功している。
の森の悲劇などの犠牲者の影に、その数十倍の人たちの悲劇が横たわっていることに気付かされ、今さらながら慄然とする。
そのことを、80歳のワイダは、父親をカティンの悲劇で亡くしたにも拘らず、静かに美しく描いている。名にし負う名監督である。