遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

イングロリアス・バスターズ/クエンティン・タランティーノ

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出演者
ナレーター  サミュエル・L・ジャクソン(クレジット無し)

日本公開 2009年11月20日
上映時間 153分


「2000年代を代表する映画25本」から、今回は「イングロリアス・バスターズ」のご紹介。
上映時間が153分とあるが、その長さを感じさせないスリリングな作品である。また、登場人物のひとり一人のパワーがみなぎっており、脚本家でもあるタランティーノがたっぷりしっかり愉しませてくれる。

時は、すでにナチスがフランスを占領していた1941年、第二次世界大戦の真っ只中。フランスの美しい田園風景に抱かれた一軒家に、ドイツ軍の車両が近づいてくるところからこの映画は始まる。
ドイツ軍の車両には「ユダヤ・ハンター」とニックネームを付けられたハンス・ランダ大佐が乗っている。

この、クリストフ・ヴァルツが演じるナチの親衛隊ハンス・ランダ大佐は、タランティーノが作り出した架空の人物である。クリストフ・ヴァルツがドイツ語とフランス語とイタリア語と英語を駆使しランダ大佐を飄々と演じ、作品全編にわたって不思議な存在感を示している。
初めて見るドイツの俳優だが、作品内で「失せろ!ランダ!」と全世界にうとまれたおかげで、アカデミー賞をはじめとして全世界の映画賞で2009年の助演でもそれ以外でも男優賞を独り占めにした。

パリで映画館を経営するショシャナ(メラニー・ロラン:フランスの女優)は、ミミューと名を変えユダヤ人であることを隠して暮らしている。そんな彼女の許へ、「ユダヤ・ハンター」ランダ大佐がやってくる。ショシャナは、芸術映画ではなくドイツのプロパガンダ映画の上映にも協力するはめになるが、そこで一大決心をする。キュートな彼女は「逃げろ!ショシャナ!」と、世界中の励ましを受けたはずである。

映画「イングロリアス・バスターズ」の完成後、ドイツでの試写会に出席したブラッド・ピットバスターズのリーダーで米軍のレイン中尉を演じたブラピは、作品内で「ドイツ野郎をブッ飛ばせ」などと言うセリフ叫んでいた手前、ドイツでの試写会の席で小さくなっていたという。ところが、上映が進んでいくにしたがって、笑い声が聞こえクライマックスでは大喝采になったという。(ネタバレになるので、これ以上のことは書けません。)

タランティーノは、この作品の着想とタイトルを決めてから、10年かけてこの脚本を完成させたという。その甲斐あって、すでにご紹介したランダ大佐やショシャナ女史やレイン中尉のみならず、個性的な米・仏・独の群像劇を見事に完成させた。
音楽(珠玉のコレクション)、カメラ(映像美、自然美)、美術(コスチューム、セット)、ライティング、編集(サリー・メンケ!)、言語(英語・仏語・独語・伊語)等、隅々にまで神経が行きわたり洗練されている。娯楽映画のお手本のような作品で、タランティーノのエンターテイメントへの情熱が箱詰めにされている。
なんとも素晴らしい。