遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

スリーピング・ドール/ジェフリー・ディーヴァー

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スリーピング・ドール〈上・下〉 ジェフリー ディーヴァー  池田 真紀子 (翻訳)   (文春文庫)


他人をコントロールする天才、ダニエル・ペル。カルト集団を率いて一家を惨殺、終身刑を宣告されたその男が、大胆かつ緻密な計画で脱獄に成功した。彼を追うのは、いかなる嘘も見抜く尋問の名手、キャサリン・ダンス。大好評“リンカーン・ライム”シリーズからスピンアウト、二人の天才が熱い火花を散らす頭脳戦の幕が開く。


ジェフリー・ディーヴァーの「ウォッチメイカー」に捜査の応援という形で登場した、キネシクス捜査官キャサリン・ダンス。
そのダンスを主人公にした作品がこの「スリーピング・ドール」。

ハイテクなセキュリティに守られた刑務所に捕らわれの身だったダニエル・ペルは、別の事件のために移送されダンスの尋問を受けた。
そして、その直後にペルは脱獄に成功し、逃走を図った。
その大胆な脱獄からこの物語ははじまるので、読者は心の準備なしでジェットコースターに乗せられる。

以下、脱獄囚でカルト集団のリーダーペルは、遠くへ逃亡する気配がなく、なぜかモントレーの周辺に出没して悪事を働く。
ダンスは、ペルの動きを予測し、彼がモントレーから遠ざかる様子がない理由を探るために、心理作戦を敢行する。
地元の保安官や、カルト集団専門のFBI捜査官や、元カルト集団に属していた女性たちなどの英知を結集しても、ペルの動きにいつも一歩遅れてしまい彼に追いつけない。なので、読者はいつまでもジェットコースターを降りられないことになる。楽しい。

例によって、普通ならこれで物語は終焉を迎えるというところで、残りページがたくさん余っており、ジェフリー・ディーヴァーのお得意技のどんでん返しが登場して、再びジェットコースターは私たちを乗せて走り出すのである。楽しい。

カリフォルニア州の風光明媚なモントレーやカーメル(元市長はクリント・イーストウッドである)を舞台に、フォルクローレが好きで、二人の子どもの母親であり、看護師の母の娘でもあるおだやかな捜査官ダンスが描かれる。

もしこの作品が映画になるとしたら、脚本作りは容易な作業になるだろうと思われる。それほど、ダンスやダンスの周辺にいる人物たちの個性の書き分けが秀逸である。
もちろん、ストーリーテラーも秀逸である。