遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

立てる像/松本竣介

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『立てる像』 松本竣介  縦162×横130センチ 昭和17年(1942年) 神奈川近代美術館蔵

神奈川近代美術館に残るこの作品は、松本竣介にしては大きなサイズの作品である。
 
彼はもっと抽象的で前衛的な作品を多く残しているのだが、
この作品の人物はていねいな筆使いで丹念に描かれている。
 
この「立てる像」のモデルは、松本竣介本人である。
 
もう少しで夜のとばりが降りるころだろうか、
背景の帰路を急ぐ男たちは闇に溶け込み、
夕食の支度なのか煙突からの煙は空に溶け込んでいく。
 
その背景の町をキャンバスの下半分に低く描き、キャンバス中央に自分を大きく立たせている。
 
戦火から遠く離れた平和で静かな町の中に、
顔を少し上向きにすっくと道の真ん中に立たせた自画像は、
力強い身体からパワーを感じる反面、表情は穏やかで未来への希望を感じさせる。
 
不思議なパワーを感じる、一度見たら忘れられない松本竣介の自画像である。