遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

フル・ハウス/ウェス・モンゴメリー

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フル・ハウス/ウェス・モンゴメリー

■パーソネル
ウェス・モンゴメリー(g)
ジョニー・グリフイン(ts) 1,3~8
ウイントン・ケリー(p) 1,3~9
ポール・チェンバース(b)
ジミー・コフ(ds)

1962年6月25日 バークレー、ツボにてライヴ録音

■曲目リスト
1.フル・ハウス
2.アイヴ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス
3.ブルーン・ブギ
4.キャリバ
5.降っても晴れても(テイク2)
6.S.O.S.(テイク3)
7.降っても晴れても(テイク1)
8.S.O.S.(テイク2)
9.ボーン・トゥ・ビー・ブルー


日本テレビの夜の看板番組だった「11PM」、金曜日の司会は大橋巨泉朝丘雪路

金曜イレブンは、「釣り」や「マージャン」や「競馬予想」や「ゴルフ」などのお遊び情報満載番組であった。
その釣り情報などのバックに毎週流れていた音楽が、誰の趣味なのか、ウェス・モンゴメリーの演奏曲であった。

それは、ギターのイージー・リスニングだったので、当時の私は、ポップスの演奏家だと思っていた。
その後、筋金入りのジャズミュージシャンと知る。

ジャズのギターサウンドは、ロックのそれとは違って、
アコースティック・ギターの構造をそのままに電気仕掛けにしたこともあり、マイルドなほんわかサウンドである。

ウェスは、演奏にピックを使わなくて、自分の指の腹と爪で、まさに爪弾く奏法である。
だからなお、ほんわかサウンドである。

しかしその技量は、ほんわかではない。

オクターブ奏法という、オクターブ違いの音を同時に弾く、というのがお得意で、
目にも留まらぬ速さでオクターブ奏法を行う。
しかしその奏法はあくまでかくし芸で、本流の演奏や音楽性はオーソドックスで素晴らしい。

「フル・ハウス」は、ウィントン・ケリーのピアノトリオに、
ジョニー・グリフインのテナー・サックスがおまけについて、ウェスのギターライブが聴ける。

ウェスのギターとグリフィンのサックスが、お行儀よくまずお約束のユニゾンメロディを演奏し
その後のブレイクでは、それぞれが縦横無尽にメロディを紡ぎ出す。
バックに控えるウイントン・ケリーとポール・チェンバースジミー・コブという、
マイルス・デイヴィスから借りてきた巨匠たちが、文句のつけようがない、精密な地球一のリズムを刻む。

このライブ演奏がよくぞ録音されて今に残ってくれたものだと、感謝せずにはいられない。
ウィリアム・クーンズの「フルハウスにはかなわない」という、プレイ・ボーイ誌の短編小説で、
エンターテイメント小説に開眼した私だが、ウェスの「フルハウス」には誰もかなわない。

60年代の、ジャズ・ギターの代名詞とでもいうべき、このライブ演奏。
ヴィヴィッドなスピード感あふれるハード・バップも、ギターソロのバラードも、
ファンキーでノリの良い演奏もあり、いろいろ楽しめる必須アイテムといえる1枚である。