遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

百番目の男/ジャック・カーリイ

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百番目の男  ジャック・カーリイ  三角 和代 (翻訳)  (文春文庫)

あらすじ
連続放火殺人を解決、異常犯罪担当部署に配属された刑事カーソンには秘密があった。誰にも触れられたくない暗い秘密だ。だが連続斬首殺人が発生、事件解決のため、カーソンは過去と向き合わねばならない…。死体に刻まれた奇怪な文字に犯人が隠す歪んだ意図とは何か。若き刑事の活躍をスピーディに描くサイコ・サスペンス。


物語の舞台となった町は、メキシコ湾をのぞむ南部の港町。アラバマ州モビール

「暗闇でなにかを求めて手探りするか、それともあかりのなかで楽に見つけられると楽観するか。人は百人中、九十九人まではあかりを選ぶ」
「じゃあ、百番目の男というのはどんなやつだね?つねに暗闇で手探りするのは」
ハリーはにやりとして、僕のほうを指さした。

あいつだ」と指を差されたのが、刑事カーソン・ライダー。指差したのが同じチームの先輩刑事ハリー。
若くて正義感に燃えていて捜査の苦労をいとわない「百番目の男」に相応しい主人公の、デビュー作がこの1冊である。
カーソン・ライダーシリーズはこの1冊から始まる。

連続殺人事件の解決と、新入り女性検視医アヴァへの恋慕と彼女の「依存症」からの救出と、腹立たしくなるほど無能な上司たちの駆逐。これらの諸課題を、若きカーソンとベテランのハリーが溌剌と明るく朗らかに堂々と解決していく。ただし、彼らの自信の裏付けとなるものは、暗がりで落としたコンタクトレンズを探し出すような地道な作業である。

カーソンには壮絶な過去と現在も続く厄災が存在する。それにもめげずに朗らかに感じるのは私の気のせいかもしれないし、翻訳のせいかもしれないが、ともかく、登場人物の中で彼らだけがまっとうであり、カーソンとハリーの行動が痛快で虜になってしまう。

「死体に刻まれた奇怪な文字に犯人が隠す歪んだ意図」が何を意味するのか、事件を解決していく中で判明する。その謎解き結果は面白いが、何とも格調が低いところが惜しい。しかし、トマス・ハリスハンニバル的な犯罪解決協力者の存在が魅力的である。

このシリーズは、カーソンとハリーと「ハンニバル的な協力者」の物語である。