遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

流れる/成瀬巳喜男

イメージ 1

偶然にケーブルテレビで、成瀬巳喜男の「流れる」を鑑賞。

1年半前に読んだ幸田文の原作は、 http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/63263555.html

読み応えのある素晴らしい作品だった。

その原作の色合いを失うことなく、成瀬は映画化した。


脚本の田中澄江井手俊郎がまず素晴らしい。

原作が存在するとはいえ、相当量が書き足されている出演者のセリフは、

それぞれに性格付けが成功していて、素晴らしい調和を持たらしている。


そして何といっても、稀代の女優たちの存在感。

公開当時の年齢順に並べると、

栗島すみ子(54)、杉村春子(50)、田中絹代(47)、

山田五十鈴(39)、高峰秀子(32)、岡田茉莉子(23)という豪華な面々。


とりわけ山田五十鈴の貫禄には感服する。

高峰秀子と親子の関係なのだが、実年齢差は7歳、

高峰の年齢設定は20代前半だとはいえ、山田の大人の雰囲気に圧倒される。

まあ、そういう存在感を感じさせる人でないと、花柳界に身を置き、置屋を切り盛りする女将

(この作品の女将は、うまく切り盛りできていないのだが)にはなれないと思う。

今の日本の女優でこれに匹敵する人は、坂東玉三郎くらいで、

玉三郎は女優ではないので、こんな女優は今はいないということである。

最後に、杉村と清元の弾き語りをする場面があるのだが、その歌と演奏にも感心した。

もともとその素養がある人なのか、演技なのか、

そのどちらが欠けても成立しない、迫真のシーンであった。


高峰秀子は、芸者役を演じる周りの女優に混じって、若い堅気の女性を演じており、

成瀬に綺麗に撮ってもらっており、原作にはない存在感を示していた。


また、田中絹代は、懐の深さを持つ女優だということを、この作品で示していて、

これぞ日本の映画女優という気風を感じさせる演技であった。



スタッフ
製作総指揮:小林一三 (83)
原作:幸田文 (52)
脚本:田中澄江(48)、井手俊郎(46)
衣裳考証:岩田専太郎(55)
清元指導:清元梅吉 (67)
プロデューサー:藤本真澄 (46)
監督:成瀬巳喜男 (51)

キャスト
梨花(お春):田中絹代 (47)
つた奴:山田五十鈴 (39)
勝代:高峰秀子(32)
なな子:岡田茉莉子 (23)
染香:杉村春子 (50)
お浜:栗島すみ子 (54)
米子:中北千枝子 (30)
高木:加東大介(46)
おとよ:賀原夏子 (45)
なみ江の伯父:宮口精二 (43)
佐伯:仲谷昇 (27)