遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

小夜しぐれ/高田郁

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小夜しぐれ ―みをつくし料理帖   高田郁    (ハルキ文庫)


今日の昼餉(ひるげ)は、難波から40分後に発車する電車に乗らなければならないなか、

難波駅の改札口付近の回転すし屋に飛び込む。

スルメイカ、納豆まき、ねぎとろ、つぶ貝、あなご、イカ明太、北海道タコと、

なんだか白っぽいネタを適当に食べて、勘定は税込みで1050円。 

残り20分で、これまた近くのマクドナルドで、100円コーヒーを飲む。

澪の店に来るお客は、私のような無粋な昼餉をとらされることはない。


本書「みおつくし料理帖」で「こんまき」という懐かしい呼び名を数十年ぶりに思い出した。

身欠き鰊(みがきにしん)を昆布で巻いた昆布巻きを、関西ではこんまきと呼んだ。

もう「呼んだ」と過去形で表してもいいほど、いま「こんまき」などという人はいない。

少し本書から逸れるが、菜切り包丁を「ながたん」(菜刀:ながたなの訛り)と呼ぶことも、

手塩皿という手塩を乗せるような小皿を「おてしょ」と呼ぶことも今はない。

祖母や母が、そう呼ぶのを聞いて育ったことを、本書の「こんまき」から思い出した。


さて、みおつくし料理帖の第5弾は題して「小夜しぐれ」、

今回もいろいろ澪を取り巻く興味深いエピソードが盛りだくさんだった。

印象的で、発展しそうなエピソードを少しご紹介。


吉原の花見料理を任された澪、舌の肥えた客人たちをうならせることに成功し、

吉原の地で店を持たないかという誘いを受ける。

吉原の料亭の、驚愕の価格設定に、幼馴染みの野江の身請けを夢見る澪は、こころが揺れる。

また、行方不明になっている大阪の奉公先だった料亭の若旦那と思しき男を江戸で発見した澪。

吉原の料亭でビッグになって、若旦那を誘き出して「確保」できる可能性にも心が揺れる。


澪がひそかに思いを寄せる御膳奉行の小松原。

ひとまわりも年長で、町人と武士という身分の違いもあって、片思いの恋は成就しそうにない。

ところが、その小松原の、妹とその亭主が本書で始めて登場し、

妹は澪に思いを寄せる兄に気付き、難やら画策してくれそうな予感。


ということで、

澪は吉原の料亭で大成功し、女の身で野江を身請けすることが出来、

行方不明の若旦那が、「ただいま」と帰ってきて、

小松原の妹が、澪と小松原の仲を取り持つ画策を成功させる。


というような先行きになってほしいなぁ、という期待が続くシリーズ5弾であった。

まだまだ面白い。(つづく)