遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ビッチェズ・ブリュー/マイルス・デイビス

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ビッチェズ・ブリュー マイルス・デイビス


静かな朝、鏡のように滑らかな水面に浮かんだ新造船が、航海に出る準備をしている。

くぐもったエンジン音は規則正しく、給排水の水音や、

スクリューの回転音が、海鳥の鳴き声に混じって耳に届く。

静かな朝ならではの光景だが、マイルスのオール電化アルバム「ビッチェズ・ブリュー」は、

そんな感じで始まる。


ダブル・チームの楽器編成は、ドラムなどのパーカッションは除いて、

大編成のオール電化となった。トランペットでさえ、増幅装置を通して聴こえてくる。


規則正しいアンサンブルをベースに、各ソロの即興演奏が展開される。

アンサンブルとインプロヴィゼーションで構成されたハイブリッド・エンジンは、

少しずつパワーアップしていって、マイルスの新造船は大海原に繰り出しいく。


乗り心地は悪くない、ゆっくりと安定しているかと思いきや、

大出力でパワー走行も楽々やってのけ、ポテンシャルは高い。


このアルバムにも参加しているチック・コリア

「リターン・トゥ・フォー・エヴァー」を購入したことで始まった私のジャズ入門は、

2番目にこの「ビッチェズ・ブリュー」をコレクションに加えていた。

いま思えば、随分おかしな入門の仕方で、どちらもジャズの風味が希薄である。

しかし、1970年代初めに無手勝流にジャズを聴き始めた若者のコレクションとしては、

ごくごく自然で、当時のベストセラー盤を揃えただけのことであった。



映画音楽に使われるような、現代音楽に最も近い感じがするが、

何度聞いても気持ちよく、波間をクルージングしている感覚がする。


アルバムタイトルになっている「ビッチェズ・ブリュー」が、一番のお気に入り。

アンサンブルは安定感と重厚感があり、

マイルスのトランペットも銀河にも届きそうな拡がりを感じる。

20歳の頃に聴いた時には、このアルバムの奥行きにまで私の心は届いていなかったように思う。



何回か、マイルス・デイビスを取り上げてきたが今回が最終回。

もう新しいアルバムは発売されないだろうから、主なものは紹介しつくした。

しかし、彼の残した業績、育てたミュージシャンや創りあげた音楽は、

永遠に不滅であり、誰も超えることができないだろう。



■レーベル:Prestige

◇バグス・グルーブ - Bags Groove(1954) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/49065819.html

◇クッキン - Cookin'(1956)  http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/16143612.html



◇ワーキン - Workin'(1956)  http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/49968679.html

■レーベル: CBS

◇ラウンド・アバウト・ミッドナイト
      - Round About Midnight(1955~56)  http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/50294796.html

◇カインド・オブ・ブルー - Kind Of Blue(1959) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/51548773.html


◇マイルス・スマイルズ Miles Smiles(1966) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/64632790.html


◇ネフェルティティ - Nefertiti(1967) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/64675698.html

◇マイルス・イン・ザ・スカイ
             - Miles In The Sky(1968) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/64737718.html


◇イン・ア・サイレント・ウェイ
             - In A Silent Way(1969) http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/14789045.html

◇ビッチェズ・ブリュー - Bitches Brew(1969)

ディスク:1
1. ファラオズ・ダンス
2. ビッチェズ・ブリュー
ディスク:2
1. スパニッシュ・キー
2. ジョン・マクラフリン
3. マイルズ・ランズ・ザ・ヴードゥ・ダウン
4. サンクチュアリ
5. フェイオ

録音 1969年8月19日-8月21日 ニューヨーク

マイルス・デイビス   - トランペット
ウェイン・ショーター   - ソプラノ・サックス
ベニー・モウピン     - バスクラリネット
ジョン・マクラフリン   - エレクトリックギター
ジョー・ザヴィヌル    - エレクトリックピアノ(左チャンネル)
チック・コリア      - エレクトリックピアノ(右チャンネル)
ラリー・ヤング      - エレクトリックピアノ(「ファラオズ・ダンス」「スパニッシュ・キー」のみ)
デイヴ・ホランド     - エレクトリックベース
ハーヴェイ・ブルックス  - エレクトリックベース
レニー・ホワイト     - ドラム(左チャンネル)
ジャック・ディジョネット - ドラム(右チャンネル)
ドン・アライアス     - ドラム(「マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥー・ダウン」のみ)、コンガ
ジム・ライリー      - パーカッション