遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ソーサラー/マイルス・デイビス

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マイルス・デイビス自叙伝」によると、マイルスがウェイン・ショーター


大変なものであった。

  オレはバンドのために曲を作る必要がなくなった。彼らが書いてから、演奏に合わせてア
 レンジする程度ですべてに最後の仕上げをするだけでよかった。たとえば、ウェインは何か
 を書くと、オレに手渡して、すぐに行ってしまう。何も言わないでだ。「どうぞ、ミスター
 ・デイビス、新しい曲です」とだけ言うこともあった。
  オレに向かってミスター・デイビスだとさ! 
  で、見てみると、これがまた、たいした曲なんだ。
(略)
  ほとんどの場合、ハービーにはコードを弾かせずに、ただ中音域でソロを取らせ、ベースの
 ロンに安定させる役目をやらせた。ハービーがそうできることはわかっていたから、もちろん
 すばらしいサウンドになった。
  ハービーは、バド・パウエルセロニアス・モンクから一歩前進していたんだ。あんな奴、
 ハービーからの後に一人も現れていない。

  すばらしいバンドの条件は、まず、何を演奏することになっても、やるべきことができる
 という、他のメンバーに対する信頼だ。何を演奏しようが、その場で何が起きようが、オレ
 はトニーとハービーとロンには絶対の信頼を置いていた。
  その信頼は、べつに演奏しなくても消えるはずがないから、いつも音楽を新鮮に保つこと
 ができた。しかも彼らは、ステージを降りても仲が良く、それは大変な強みだった。


この、アルバム「ソーサラー」は、マイルスの言葉を立証するサウンドで仕上がっている。

そしてついに、マイルスの自作の曲は1曲も存在しなくなった。

プレーヤーとプロデューサーとコンポーザーの偉大な顔を持つマイルスをして、

もうオレが書かなくてもいいか、と思わせる才能ある若きメンバーだったのである。


マイルスとショーターは、安定感のある優れたリズム・セクションに乗っかったまま、

相変わらず自由奔放で、部分的に登場する、トニーとハービーとロンのピアノ・トリオは、

確かに他の追随を許さないカッコいいサウンドである。


このマイルスの輝かしきクインテットのアルバム群は、

この世に存在する、1000円以内で買える最も優れたグッズのひとつである。



ジャケットは当時のマイルスの恋人、女優シシリー・タイソン

私は彼女を覚えていないが、名作「フライド・グリーン・トマト」に出演していたようだ。


■パーソネル

マイルス・デイビス(トランペット)1926-1991
ウェイン・ショーター(サックス)1933-
ハービー・ハンコック(ピアノ) 1940-
ロン・カーター(ベース) 1937-
トニー・ウィリアムス(ドラム)1945-1997

録音 1967年5月16・17・24日 ニューヨーク

曲目リスト
1. Prince Of Darkness
2. Pee Wee
3. Masqualero
4. The Sorcerer
5. Limbo
6. Vonetta
7. Nothing Like You
8. Masqualero (Alternate Take)
9. Limbo (Alternate Version)