めったに笑わないマイルス・デイビス、
というより、彼の生き方は「笑ってたまるか」なのだった。
でも、「マイルス・スマイルズ」のジャケットでは、
彼らしくなく、さわやかに笑っている、男前だ。
「口角をあげるといい。うん、それを笑顔というんだが。
形からでいい。お脳はあとからついていく。」
生きているうちにマイルスにそう言ってやれば、
もうちょっとは違う人生を歩めて、65歳よりももっと長生きもしただろうに。
このアルバムは、「E.S.P」から1年半以上もあけて録音された、
第二期クインテットの第2弾作品。
■パーソネル
マイルス・デイビス(トランペット)1926-1991
ウェイン・ショーター(サックス) 1933-
ハービー・ハンコック(ピアノ) 1940-
ロン・カーター(ベース) 1937-
トニー・ウィリアムス(ドラム) 1945-1997
ウェイン・ショーター(サックス) 1933-
ハービー・ハンコック(ピアノ) 1940-
ロン・カーター(ベース) 1937-
トニー・ウィリアムス(ドラム) 1945-1997
録音 1966年10月
完成度は高く、非の打ちどころのないアルバムに仕上がっている。
ライブで研鑽を重ねた5人の技術は筋金入りで、
呼吸はぴったりで、おそらく全曲ワンテイクで録音したと思われる。
マイルスとショーターのユニゾン部分は、
なんだかへんてこりんなメロディもあるにはあるのだが、
ひとたび二人がソロで即興をやり始めると、
嬉しくなってきて口角が上がる。
また、ハービー・ハンコックは、ソロでは華麗で、
伴奏では堅固でしっかりしていてびくともしない。
磐石のリズムセクションを形成している。
このクインテットのライブを録音しなかったコロンビアに対して、
マイルスは不快感を示している。
一世一代の名演奏は、ライブ演奏の中でのべつ幕なしに生まれていたのに、
それを歴史にとどめなかったコロンビアに、立腹していたのである。
しかしそんな事はどこ吹く風で、夜な夜なこの5人を聴くために、
各地のジャズクラブに足を運んだファンが後を絶たなかったという。
そしてこのスタジオ録音も、一世一代の名演奏であることを疑う者はいない。
ビビッドでスリリングで、緊張感があるのに安定している。
笑わないマイルスのジャケットのスマイル写真は、
意外にも、この当時の彼の心境を表しているのかもかもしれない。