遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

キリマンジャロの娘/マイルス・デイビス

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■曲名
1. フレロン・ブラン
2. トゥ・ドゥ・スイート
3. プティ・マシャン
4. キリマンジャロの娘
5. マドモワゼル・メイブリー
6. トゥ・ドゥ・スイート(別テイク)

■パーソネル
マイルス・デイビス(トランペット)1926-1991
ウェイン・ショーター(サックス)1933-
ハービー・ハンコックエレクトリック・ピアノ) 1940-
ロン・カーター(エレクトリック・ベース) 1937-
トニー・ウィリアムス(ドラム)1945-1997
1&5
チック・コリアエレクトリック・ピアノ)1941-
デイヴ・ホランド(エレクトリック・ベース) 1946-

録音 1968年6月19・20・21日、9月24日 


マイルス・デイビスの第二期黄金クインテット最後のアルバムが、

この「キリマンジャロの娘」。


前作「マイルス・イン・ザ・スカイ」で電子ピアノとエレキ・ベースを取り入れ、

エレクトリカル・ジャズサウンド・パレード期を築いてしまったマイルスは、

いつまでもこの黄金クインテットで演奏を続けたいという願いを、自らの手で断ち切ってしまった。


1968年の6月と9月の2回に分けられた録音のうち、

あとの方の9月24日の録音には、ハービーとロン・カーターは参加しなかった。

代わりに、チック・コリアデイヴ・ホランドが参加した。


このアルバムのジャケットの女性は、後にマイルスの妻になるベティ・メイブリー。

彼女に捧げられた「5.マドモワゼル・メイブリー」は、

新メンバー、チック・コリアデイヴ・ホランドが入った録音だが、

新メンバーふたりのピアノ・タッチとベース・ラインのきらびやかさには、感服してしまう。

「役者」が変わってもますますこのクインテットは絶好調なのであった。


常に進化を続けたいマイルスは、もはやジャズというジャンルから飛び出して、

マイルス・サウンドを構築したかにみえる。

20歳の頃の私は、まずはマイルスのエレクトリカル・サウンドのジャズに入門した。

入門した頃、すでにこのアルバムは録音から5年ほど経過していたが、

何の違和感もなく受け入れることが出来たのは、当時のマイルスが先進的だったからだろう。

マイルスの手になる丹念に磨かれたサウンドは、

フォークやポップスやロックを聴いて育った若者の神経細胞に、違和感なく入り込めた。

その音作りの終始は、マイルスの自叙伝で詳しく語られていて、

当時の彼の先進性が、明らかにされている。


例によって、初めてこのアルバムを耳にすると、不安な不協和音ばかり気になるのだが、

リズミカルな曲を排除した構成を聴き重ねると、その不思議な魅力に取り付かれる。

トリッキーなのに、なぜかしっとりとしたサウンドにぜひ耽溺いただきたい。