処女航海
総選挙後の新政権の船出は、出航までいま少し時間がかかるようだ。
いずれにしろ、これが処女航海となるわが国の新政権に夢を託して、
今日の一枚は、ハービー・ハンコックの「処女航海」。
「1. 処女航海」の最初の一フレーズを聴いただけで、
これはモード・ジャズの典型的な曲だと認識できよう。
この1枚の前に紹介した、
モンクの「ブリリアント・コーナーズ」の楽器編成とほとんど同じで、
録音時期が10年も隔たると、かくも音作りが変遷するものなのかと、
あたりまえのことなのにやれやれと思うのである。
嵐の予兆すら感じさせない静かな海を、滑るような処女航海で、
船長はマイルス・デイヴィスだと言われたとしても、違和感のないアルバムである。
ハービー・ハンコックは、後に電気仕掛けの楽器を弾くことになるが、
この頃の音作りにも、その後を容易に想像できるようなフレーズが頻出する。
「4. サヴァイヴァル・オブ・ザ・フィッテスト」の
ハービー(p)とフレディ・ハバード(tp)とジョージ・コールマン(ts)のヴィヴィッドな演奏は、
滑るような航海とは一味違う、下手をすると悪酔いしそうなドライブ感がある。
わが国には、このアルバムのファンが多く存在する。
アコースティックなアンティーク・ムードこそが、聴く人を魅了していると思う。
そのリズムセクションのしたたかな営みは、
マイルスという母船を一旦離れたハービー丸の、
処女航海を安全に保つには、十分なものであったと思うのである。