遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

川は静かに流れ/ジョン・ハート

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 川は静かに流れ ジョン・ハート  東野さやか (訳)  (ハヤカワ・ミステリ文庫)



大きな川の流れる田舎町、ノースカロライナ州のローワン郡が、

この物語の美しい舞台である。

ノースカロライナ州がどこにあるかお分かりだろうか、

どなたもご存知のフロリダ州東海岸沿いに北上したとすると、


ノースカロライナ州に入るという位置関係になる。


その海岸線から遠くはなれた大きな川のほとりで、

大農場を営む一家を中心に、物語は展開していく。


この農場の後継者である主人公アダムは、ある事がきっかけでこの町を捨て、

大切な人たちの目の前からいなくなってしまう。

しかし、親友の突然の電話に胸騒ぎを覚え、5年ぶりに帰郷する。


石持て追われた故郷に舞い戻ったが、電話をかけてきた親友は姿を消し、

アダムとその家族(アダムの実の父親、継母、その連れ子のふたごの兄と妹、

農場の敷地内に住む家族同然の美少女とその祖父)に、

ただならぬ事態が川の流れのように迫ってくるのである。


家族の物語「キングの死」で  http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/50746339.html

デビューしたジョン・ハートは、この2作目「川は静かに流れ」でも、

家族を取り上げて、まさに「大河」物語に仕立て上げた。


冒頭の謝辞でジョン・ハートは次のように書き出している。

 わたしが書くものはスリラーもしくはミステリの範疇に入るのだろうが、同時に家族を

めぐる物語でもある。偶然そうなったわけではない。誰にでも家族がいる。いい家族、悪

い家族、離ればなれの家族、心の通い合わない家族。どれであってもわたしの意図には関

係ない。話はいくらでも飛躍させられるし、それでも読者は理解してくれる。家庭崩壊は

豊かな文学を生む土壌であると、わたしは折にふれ発言してきたが、心からそう思う。



5年間アダムを故郷で待っていた、

有能な警官でありかつ魅力的な恋人のロビンが、しみじみ言う。

 彼女は体を横向きにした。「人生は短いのよ、アダム。心から大切だと思える人にはそ

うたくさん出会えない。だから、出会えた人を手放さないためには、どんなことでもする

べきよ」

「何の話だ?」

「人間は誰でも過ちを犯すと言ってるの」



大切な人のために、大切な人が遠くへ行かないために、

人はどんなことでもできると、

ジョン・ハートはロビンにそうささやかせたのである。


物語の謎解きとは別に、ミステリには、私たちを取り巻くすべての問題が箱詰めにされていて、

それらがきちんと私たちに送り届けられて来て、勇気をくれるのである。


本作でジョン・ハートは、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を受賞した。