遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

アイアン・ハウス/ジョン・ハート

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アイアン・ハウス(上・下) ジョン・ハート 東野 さやか (訳) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ジョン・ハートの小説第4作目は「アイアン・ハウス」。
アイアン・ハウスという名の孤児院で育った兄弟が物語の主人公である。

兄マイケルは、孤児院から抜け出したあと、まだ子どもだったにも関わらずギャングの親分に誘われ組織に入り、
持ち前の勇気と賢さでその親分の右腕として30代を迎えていた。
恋人のエレナの妊娠をきっかけに、組織から独立するため、病床の親分にその許可を得て、
新しい道を進もうとするところから、この物語が始まる。

新しい道の行く手には幸せだけが待っているのだったら、この物語は3ページで終わりを迎えるのだが、
マイケルとエレナの前には大きな障害が立ち塞がる。
組織を抜ける許可と同時に、親分は8千万ドルという全財産を、実の息子ではなくマイケルに託した。
その大金をめぐって、実の息子や組織の兄貴分から命を狙われることになる。

そして、もう一つの大きな物語が、マイケルと実の弟ジュリアンを取り巻く物語である。
ジュリアンは、大富豪の上院議員の妻に養子として孤児院から引き取られ、マイケルと違う人生を歩いていた。
彼は兄マイケルとは正反対の、引っ込み思案でひ弱な心を病んだ少年だった。
しかも、孤児院ではいじめのターゲットにされ、特定の数人のグループは、
マイケルの目を盗んでは虐待を繰り返し、ジュリアンの心は閉ざされたまま養子に迎えられていた。

有力な上院議員の息子でありながら、30代のジュリアンは童話作家としても有名になっていた。
マイケルは、ジュリアンにも組織の手が伸びていることを知り、弟を守るために上院議員の邸に向かう。
やがて、上院議員の邸の湖から謎めいた複数の死体が発見され、物語は新たな展開を見せることになる。

タフでハード・ボイルドな人生を歩んでいるマイケルは、傷つきやすく繊細な弟のために、
たった一人の血の繋がった大切な弟のために、命を張って災厄に立ち向かう。
そして、孤立していくマイケルのたった一人の支えが、上院議員の妻でありジュリアンの母であるアビゲイル
そして、この魅力的な女性アビゲイルの不思議な秘密が徐々に明らかになってくる。

ネグレクト(親の虐待や育児放棄)の犠牲となった子どもたちが大人になった物語、
「ミレニアム」「ブラッド・ウラザー」と偶然立て続けに読んでいる気がする。
いまわが国でも、子どもたちは親や級友から虐待を受けて傷ついているニュースが頻繁に飛び込んでくる。
前3作で家族の崩壊と再生を静かに描いてきたジョン・ハート
その姿勢はこの長編小説「アイアン・ハウス」でも息づいている。

人は何を支えに何を信じて生きていけばいいのか、ジョン・ハートはいつも私たちにそれを示してくれる。