遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

カポーティ/ベネット・ミラー

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ゴールデンウィークには、何のプランもなくレンタルDVDショップに行き、

棚に並んだ作品を品定めして、数作品を借りて帰ってくる。

そのなかの1作「カポーティ」をご紹介。


ドキュメンタリー映画を1本撮り、この作品がドラマ初挑戦の監督という。


ティファニーで朝食を」を1958年に上梓し、1961年にはオードリーで映画化も実現し、

すでに名声を博していたトルーマン・カポーティ

1959年、彼は新聞記事である凶悪事件を知る。

カンザス州の田舎町で一家四人が惨殺され、まもなく2人組の犯人が逮捕された。

カポーティは、この事件を基に小説を書くことを思い立ち取材を始める。

彼の代表作「冷血」は、このようにして書き始められた。


ニューヨークのサロンのような社交界で、取り巻きたちと酒を飲みながら、

下世話で不遜な態度のカポーティと、

カンザスの留置場に足繁く通い、殺人事件の関係者や、

拘留されている犯人と面会を続け、緻密な取材を重ねるカポーティ


犯人である2人組の一人、ペリー・スミスとは、不幸で貧しい生い立ちが似ていて、

カポーティは、スミスを、情報提供をしてくれる取材の対象以上の、

複雑な感情を抱いている。

しかし、5年もの長い間取材を続けた「冷血」がセンセーショナルな作品に仕上がるための、

最後の大事な味付けは、犯人たちの死刑が執行されることなのである。



退廃的な光と愛に飢えた影を持ち、執筆のためには全霊を傾ける個性的な小説家を演じる。

この作品を観るまで、トルーマン・カポーティの事はほとんど知らなかった私だが、

ホフマンの好演(アカデミー主演男優賞)により、カポーティの人物像が見事に立ち上がってくる。


取材の手助けをしてくれる幼馴染みの女性が、ハーパー・リーという人物で、

彼女はあの「アラバマ物語」の原作者でもある。

これまたキャサリン・キーナーが、壮年のインテリ作家を好演している。

作品中に、「アラバマ物語」の上映会にカポーティが駆けつけ、

劇場の階段付近でカメラフラッシュを浴びるシーンもあった。

そのバックに流れるのが、ジョン・コルトレーンの「Easy to remember 」。

トレーンのテナーサックスだけで、そのシーンが俄然ドラマチックに豹変するのである。

そのほか、随所に流れる当時のジャズが、映画の性格付けに役立っている。


また、作品のなかで、「朗読会」のもようが描かれていたのが興味深かった。

ステージが備えられた大きな会場で、作家自らが新作のエッセンスを朗読するという催しである。

当時はこのような朗読会がよく開催されていたのだろうか、

正装した男女が、水を打ったような会場でカポーティが読み上げる「冷血」の一説を、

一人劇を観るように固唾を飲んで見守るのである。


カポーティの「冷血」もぜひ読んでみたいと思った次第である。
 

カポーティ  Capote
監督 ベネット・ミラー
脚本 ダン・ファターマン
出演者
フィリップ・シーモア・ホフマン
キャサリン・キーナー 他
音楽 マイケル・ダナ
撮影 アダム・キンメル
日本公開 2006年9月30日