遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

永遠の仔/天童荒太

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永遠の仔〈上・下〉 天童 荒太



第140回直木賞は、天童荒太の「悼む人」の受賞が本日決まった。


天童は実に寡作の作家である。

私の本棚にある「永遠の仔」は、1999年の版で、

同年3月に本作品は発売された。

それからほぼ10年後の1月に、晴れて直木賞を受賞したのである。

10年の月日の経過の速さに、今更ながら驚いている次第である。


永遠の仔」は分厚い上下の単行本であり(文庫も有り)、

原稿用紙で実に2385枚だそうである。

上巻を読んだ私は、下巻を読み始めるまで、

1年以上時間をおいている。


例によって、先に読み終えた女房が「これすっごいで~」、

早く読めと催促するのだが、なぜかしばらく下巻を手に取らなかった。



児童養護施設で出会い育った男女3人の幼なじみ、

いまは看護師、警察官、弁護士と立派な成人になっている。

彼ら3人を取り巻く、生い立ちから大人になるまでの、

長編大河ドラマである。


決して激しくない静かな物語なのだけれど、

悲しくて深い慟哭の物語である。


村上龍はこの本の帯に次のような推薦文を寄せている。

     衝撃という言葉では足りない。

    天童荒太は、少年たちの壮絶な

    成長を克明に描き切っていた。最

    大のミステリーは人間の内部にあ

    る。時間を忘れて読んだのは、こ

    の生命の物語が、愛おしく、そし

    て驚異的だったからだ。



人間とは素晴らしく、かつなんと酷い存在なのだろうかと、

ため息が出てしまうのである。


表紙の舟越桂の彫刻も、天童の作品ではすっかりおなじみである。
 

その船越の表紙の「悼む人」での受賞、

春からおめでたい事である。