1946年(昭和21年)に第1回が開催され、
本年で60回を迎えた正倉院展。
第1回から見続けているお方が、
戦中戦後のモノトーンの世界と、
展覧会の宝物の色鮮やかな世界の対照的だったことを、
印象深く覚えているという。
「目に痛いほど鮮やかな色彩が」とても印象的だったとおっしゃる。
第1回の正倉院展は、20日間の開催期間中に、
全国から15万人もの観客を集めた。
当時、1円の入場料と3円の図録は、
決して安いものではなかったと思われる。
しかし、「この国にはもう何も残っていない」
と思っていた戦後のまもない頃の人たちには、
正倉院の宝物が、生きる勇気を与えてくれたという。
「白瑠璃碗」は、今年の出品物のガラス工芸品で、
第1回展にも展示されていた。
ガレやラリックなどの後世の芸術家たちのガラス工芸作品とは趣を異にした、
素朴な生のままのガラスの美しさを湛えた一品である。
5世紀ごろのイランで作られたものが、
シルクロードをわたってきたのであろうか、
透明感を失わないまま今日わが国に伝わっている。
手前の亀甲内に、碗の反対側の亀甲が小さく映り、
1500年前の切子細工の精巧さに感心する。
千数百年前のワールドワイドなお宝がいっぱいの正倉院展、
外界の下品な色使いの世界とは反対に、
宝物たちには自然の色彩が投影されている。
奈良へは行かずに、TVでその特集を見ているだけの怠け者の私。
宝物の色落ち予防など、展示への障害はあるものの、
正倉院の宝物を常設できる展示場など、
すぐできそうなものだろうにと、