NHKのスタジオで熱く語った。
前作「生きる」に引き続き、
時代劇を制作する方針で執筆にかかった。
「七人の侍」に行き着くまでに、2本もの脚本が没になり、
「食えない武士を百姓が雇う」というプロットが決まり、
3人が旅館に寝泊りを続け、脚本を仕上げたという。
黒澤と橋本が同じ場面のシナリオを書き、
小国がそのどちらかを採用するという方式で進められた。
一文字も書かずに旅館に缶詰になっていた小国は、
行司役に徹していたという。
黒澤は旅館に持ち込んだノートに、
すでに七人のそれぞれの人物設定をおびただしい字数で書いていた。
そのノートをちらっと見た橋本は、
悪魔のように繊細な黒澤に心底感心したという。
旅館の部屋つきでお世話をしていた女性が、
執筆中の部屋にお茶を持って入ろうとして、
ためらっている様子を橋本が目に留めた。
あの時なぜ躊躇したのか後に聞くと、
黒澤と橋本が向かい合って執筆している様子が、
真剣勝負のようだったからと言う。
そこは、将棋や囲碁のタイトル戦にも使われる名旅館、
世話係の女性が言うには、そのタイトル戦以上の殺気が漂っていたという。
「百姓が侍を雇う」という単純なプロットに、
(単純だけどいくらでも話が膨らんでいくプロットでもあるが)
没になった2本の脚本のエッセンスが肉付けされていった。
そのエッセンスは、映画前半の雇うべき七人の侍選びに登場する。
剣豪たちの武勇伝として、オムニバス映画のように展開されるのである。
たとえば、実在の剣豪、上泉信綱のエピソードを、
志村喬演ずる勘兵衛の人質救出作戦として描くといった具合である。
この上泉信綱の人質救出の話は、知る人ぞ知るエピソードだそうで、
私ははじめて知ったが、映画では前半の有名な場面でこの話は登場する。
外国映画が日本で封切りになり、評判を獲る。
黒澤明は、上映が終って配給もとに却ってきたその映画を一人で観る。
そして次には、フィルムのコマを、ひとつひとつ丹念に手にとって観察する。
橋本忍は、そういう若き黒澤を目にしていたと、尊敬の念を込めて語る。
いったい何本の映画を研究したのだろうか。
映画の上映時間1秒あたりに、フィルムは24コマ存在する。
気の遠くなるような彼の分析研究というか、修行というか、
努力の一端を垣間見た感じがした。
黒澤組の代表作、我が国の至宝というべき「七人の侍」は、
黒澤組のたゆまざる努力の賜物であるという証言でもあった。
その他↓の名作をお茶の間で上映してくれる。
【没後10年 黒澤明特集】 <映画> 9月1日(月) 午後9:04~10:48 「生きものの記録」 9月2日(火) 午後9:04~10:55 「蜘蛛巣城」 9月3日(水) 午後9:04~11:10 「どん底」 9月6日(土) 午後8:04~11:32 「七人の侍」 9月20日(土) 午後9:04~11:24 「隠し砦の三悪人」 <関連番組> 9月1日(月)午後11:00~11:44 「香川京子 黒澤映画を語る」 9月4日(木)午後9:00~10:29 シネマ堂本舗 黒澤明スペシャルII 9月5日(金)午後8:00~9:29 「甦(よみがえ)る巨匠の製作現場 ~野上照代が記録した19本の黒澤映画~」 9月7日(日)午後1:00~4:20 クロサワ アーカイブス特集