遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

グロテスク/桐野夏生

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グロテスク〈上・下〉 桐野 夏生 (著)   (文春文庫)



忙しくて、職場で居眠りしている暇はないが、

どうしようもなく眠いことが少なからずある。


この小説の主要登場人物の一人、佐藤和恵は、

仕事中に眠くなったら、屋根の上で寝るスヌーピーみたいに

空きの会議室の机の上で眠るのである。

それ、私は真似できないけど、いい塩梅だろうな。



この小説は、「東電OL殺人事件」をモティーフに、

被害者の女性(この小説では和恵)を取り巻く人間模様が、

和恵の女子高入学時から殺される39歳までの、

四半世紀にわたる登場人物たちの変遷が物語られている。


【登場人物】

わたし…この物語の語り手、スイス人の父と日本人の母に生まれたハーフ。。
    歪んだ性格は、怪物と呼ぶ絶世の美女である妹ユリコと自分の要望との
        差から生じたと信じている。
    男嫌いというか、人間嫌い。特に何かと比較される妹が大嫌い。
    名門の誉れ高き初等科から大学までの一貫校Q高校に、高校から入った秀才。

ユリコ…「わたし」の妹。類まれな美貌の持ち主で、センセーショナルな美しさを持つ。
    生まれつきのニンフォマニア(女性の色情症)。
    同じくQ中学に、その美貌のおかげで転入でき、その後Q高校に入学。
    姉とは1学年違いの同窓となる。

和恵……厳格で吝嗇(りんしょく)な父親にしつけられた優等生。
    わたしと同級生で、高校からQ高校へ入学し、Q大学を卒業後、
    大企業の総合職として、一線で仕事をしてきた。
    高校時代から変人で、周囲との摩擦が絶えない。
    その摩擦熱が自分を溶かしていくことも気付かない優等生。
    殺されるまで、仕事帰りの渋谷では、風俗嬢・娼婦という別の顔を持つ。


ミツル…同じく女子高であるQ高校で、わたしと和恵の同級生。
    成績は常にトップで、何をやらしてもソツなくこなせる真の優等生。
    他の卒業生と違い、持ち前の優秀さを発揮し東大医学部へ進学する。
    しかしその後は絵に描いたような転落の人生を歩むことになる。




「わたし」は和恵を蔑み、ユリコを呪い、ミツルにあこがれた高校生であったし、

いまは、市役所にパートとして働く、40歳を目の前にした「処女」である。



そのQ高校時代の同窓の和恵やミツルやユリコが、「わたし」の思い出として語られる。

和恵のやるせない一途さに、ラルフローレンのソックスの思い出がグロテスクである。

ユリコの美貌と奔放さに惹かれる者、蔑む者、利用する者、入り乱れてグロテスク。




主人公の女性達が、能く描かれている、

彼女達は堕ちていくのだけれど、彼女達をグロテスクとは思わない読み手の私も、

グロテスクなのか、

よくわからない。


そして、彼女達を取り巻く男達、

「わたし」とユリコのスイス人の父親、

日本人の祖父、ユリコのホームステイ先のジョンソン、

ユリコの女衒キジマ、その父でQ高校の教師木島、

殺人犯の中国人チャン、和恵の東大出の父親。



彼らのくだらなさが能く描かれている、

彼らは男として普通である、親近感が湧く。

私たち男は、どうしようもなく情けない代物だと愕然と再確認してしまう。



この作品のQ高校の描かれ方や女性の登場人物の人物像のさわりを、

職場や家庭で私は喋った。

皆この作品を読みたいと言い、部下の一人は読み出した。

「面白いです。けど、お子さんにはちょっと・・・」
    


受験勉強なんかせずに、この小説読む方が良いに決まっているのだが、

読みたいといった長女には、春までお預けにしようと思う。