遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

特捜部Q“キジ殺し”/ユッシ・オールスン

イメージ 1

特捜部Q ―キジ殺し―  ユッシ・エーズラ・オールスン  
           吉田薫・福原美穂子 (訳) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第2弾、「キジ殺し」を読了。

はみ出し刑事のカール、中東からやってきた助手アサドに加えて、ローセという女性秘書も加わり、特捜部Qは3人体制になった。アサドもローセも、カールの目から見て相当変わり者に描かれているのだが、主人公のカールも他の登場人物の目から見れば相当の変わり者だから、みな変人といったところである。しかし変人だが有能である。

特捜部Qは、いわゆるお蔵入りになった過去の事件を扱うことが課せられた職務。いつのまにか誰かが持ち込んだのか、特捜部のデスクに20年も昔のある事件のファイルが置かれていた。しかしその事件の犯人は逮捕され現在収監中で、未解決ではないはずなのだが…。

富豪や著名人の子息が集う全寮制の名門高校。その名門校に、ある時期不良グループが在籍しており、20年前のある事件で逮捕された犯人はそのグループの一員だった。

カールとアサドが捜査を進めていくと、上層部からその捜査に待ったがかかった。20年後の不良グループたちは、その後親の七光りなどで今やデンマークでその名を知らぬものがないほどの有名人になり、多くの人間を雇用する実力者になっていた。カールは彼らの圧力を感じないではいられなかった。

元不良グループに紅一点キミーという女性がいた。本作のもう一人の主人公がこのキミーという女性。今や落ちぶれて行方不明になっているのだが、不良グループの秘密のカギを握っているのがキミー。裕福なのに両親からの愛を享受することなく大きくなった冷徹な少女キミー。彼女の「来し方行く末物語」が大河小説その1、特捜部Qの「捜査物語」が警察小説その1。ふたつの物語がとパラレルで600ページの大作となって流れていく。

タイトルの「キジ殺し」とは、元不良グループのひとりが自らの邸宅の狩猟場を兼ねた広大な敷地で、キジなどの狩猟を楽しんでいることをイメージしてつけられたタイトルであろう。そして「狩猟」が過去の不良グループたちの「襲撃」にも関連付けられているだろう。

デンマークのセレブたちに立ち向かう、みすぼらしい特捜部Qの3人組。その設定はシンプルで素朴だが、展開はバラエティに富んでいる。このシリーズ2作読んで外れなし、次作が楽しみである。それにしても私、一冊読むのに長く楽しみすぎというか速度遅すぎで、自らに課せた今年のノルマにまったく到達せず。読書生活、要改善。