「鬼警部アイアンサイド」という、車椅子の警部が主人公の、
TVドラマシリーズがかつてあり、私は欠かさず毎週見ていた。
「ペリー・メイスン」役で一世を風靡したレイモンド・バー主演の、
優れたTVドラマであった。若山弦蔵の吹き替えも秀逸であった。
「ポップ1280」の原作者ジム・トンプスンは、
「鬼警部アイアンサイド」の原作者であり、
「ポップ1280」、人口1280と言う意味で、
そんなアメリカの小さな町の保安官が主人公のお話である。
「塩狩峠」とは、対極にある作品である。
雑誌か新聞かの新刊書評で、誰かのお奨めだったので読んでみた。
書かれたのは1964年、今般文庫化されたものである。
トンプスンの作品を読むのははじめて、
なるほど、元祖ノワール作家と称されるのもうなずける、
神を冒涜するような物語が、はじめから終わりまで、
しっかり詰まっている。
もう、朝から言葉にするのもはばかられるような出来事・会話のオンパレード。
TVドラマにはなりえない、作品である。
学校の図書室には置いてないであろう。
主人公の保安官の一人称で書かれているので、
心にうつるよしなしごとが次々と包み隠さず現われてくる。
小心者の私は姿を隠してのブログでも、こういうことは書けない。
「ポップ1280」には、生身の人間が素直に描かれている。
何かについてあることを考え、でもまた別な考えが頭をよぎり、
でも行動するときには学習したこととはリンクしない、
説明のつかないことに立ち至ってしまう。
人間は細胞の数だけ考え思うところがあるような気がする。
説明のつくパーツは10万個くらいか。
残りの数十兆個のパーツは、宇宙のように広大でなんだかよく判らないけど、
面白くて楽しくて怖くて汚くてくだらなくて、
でもキラ星のごとくまばゆく美しい。