この名作をずっと未見のまま50代半ばまで過ごしてきた。
台風の中、北海道は岩内の質屋に強盗が押し入り3人を殺害、
同日、青函連絡船が転覆し、乗船名簿にない2人の遺体が収容されるところから、
このミステリーは始る。
時は昭和22年、終戦間もない青森から、
東京、舞鶴と、10年の月日が流れ、
貧しい日本と、青森に生まれた一人の女の半生と、
その周辺の人たちが描かれる。
主人公杉戸八重を左幸子が演じる。
当時35歳ではあったが、溌剌とした娘役から、
芸者役まで、楽々と演じる。
しかし、特筆しなければならないのは、
一途な心を貫く杉戸八重のゆるぎない誠意と、
一途さから生まれる、強さと危うさと悲しみを見事に演じていることである。
脇を固める個性派ぞろいの役者が、
渋くて自然で素晴らしい。
彼ら以外では考えられないキャスティングではなかろうか。
良い味を出している。
水上勉の原作は学生時代に読んだが、
映画ならではのリアリティを余すことなく伝えてくれている。
美しく悲しい時代は遠くなった。
キネマ旬報「オールタイムベスト・ベスト100」日本映画編