遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

活版印刷三日月堂: 海からの手紙/ほしおさなえ

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活版印刷日月堂: 海からの手紙  ほしお さなえ (著) (ポプラ文庫)

<もくじ>
ちょうちょうの朗読会
あわゆきのあと
海からの手紙
我らの西部劇

朝日新聞の日曜日の書評「池上冬樹が薦める文庫この新刊!」で紹介された、ほしおさなえの「活版印刷日月堂: 海からの手紙」のご紹介。池上が絶賛するので読んでみた。

本書は2017年2月に刊行されたシリーズ2作目で、連関する短編4章からなる物語である。(シリーズ1作目は私はまだ未読。)

物語の舞台は、埼玉県川越市。あまり幸せでない人たちが、それぞれ心の奥底に秘めた哀しみを抱いて、活版印刷屋の三日月堂を訪れる。店主の弓子との交流や彼女が活字で組んでくれる「活版印刷物」によって、訪問者の心が洗われていく。

もちろんのこと、読み手の私たちの心も澄みわたっていく。

表題の「海からの手紙」は、活版印刷の名刺が取り持つ縁で訪れた三日月堂で出会ったあることがきっかけで、主人公の女性がかつて創作していた銅版画を再開する過程が描かれた温かい物語。主人公は、かつて負った心の傷と一緒に銅版画の創作を封印してしまったままだった。

この短編に、メゾチント(銅版画の一技法)の第一人者長谷川潔の人となりや芸術が短く登場する。私は若いころに長谷川の展覧会を見ているので、2倍温かくなった。

また、「ちょうちょうの朗読会」は、4人の女性グループが主宰するはじめての朗読会をめぐるお話。彼女たちのグループ名が「ちょうちょう」で、活版印刷のプログラムを三日月堂に依頼するところから、朗読会の物語が始まる。

彼女たちが朗読する作品が、実在の作家あまんきみこの実在の作品群で、「車のいろは空のいろ」シリーズの「白いぼうし」や「すずかけ通り3丁目」などの作品のさわりが紹介されるのだが、これまた哀しくてお温かいお話が満載。こちらの作品群も読みたくなるのである。

祖父から受け継いだ弓子の活版印刷屋三日月堂は、まだまだ繁盛していくことになると思われる。第1作も読んでみる。