藤田は、父親思いの娘に感心して、安い画料にもかかわらずかなり大きいキャンバスの素晴らしい肖像画を仕上げた。この肖像画をプレゼントされた父親は、画料の追加分を持ってきたという。この肖像画にまつわるエピソードは微笑ましいが、藤田のビジネス抜きの仕事ぶりにも感心する。藤田38歳頃の作品である。
■「X夫人の肖像」1957年 41×33㎝ 個人蔵 (画像右)
こちらは1957年の作品で、藤田71歳頃の制作になる。エレーヌ嬢の肖像画よりはるかに小さいキャンバスに、こちらもとても丁寧に仕上げられている。
モデルの初老の女性は、作品に満足しているかどうかは不明だが、第三者としてはまるでモナリザのように高貴であると言える完成度である。現在個人蔵になっていることからも、こちらもおそらく依頼による制作であろう。画料はエレーヌ嬢のそれより何倍もしたであろう。