遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ふたつの「自画像」/マリー・ローランサン

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上の画像の女性は、同一人物による自画像です。
画家マリー・ローランサン(1883-1956)が自分を描いた作品で、左が1905年、右が1908年の作品です。

3年の月日が彼女をこのように変えてしまいました。と言っても、変わったのはローランサンの容貌ではなく、絵の描き方です。

左の、22歳時の作品は、1870年代から頭角を現した新しい波、美術史のヌーベルバーグともいうべき「印象派」の影響を受けたような創作姿勢が見て取れます。

右の1908年(25歳)の作品は、キュビズムの影響を受けていると思われます。ピカソが「アビニヨンの娘たち」を発表したのが1907年ですから、時期的にもうなずけますし、事実、彼女はブラックやピカソなど当人たちに当時出会っています。

キュビズムとは、20世紀初頭にパブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって創始され、多くの追随者を生んだ現代美術のこれまた「新たな波」でした。対象フォルムを、箱(キューブ)が重なるように多面的にとらえる技法から命名されました。

そして、第一次世界大戦開戦時の1914年に、スペインへ亡命した頃から、彼女の作風はキュビズムから世にも有名なあのパステルタッチの女性像を描いた作風に変わっていきました。(その代表的作品も、近々ご紹介してみたいと思います。)

私は、若きローランサンのこの2枚の自画像の方が、後年のパステル調の作品群より好きであります。若い野心が透けて見えて、力強くていいと思います。