遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

大阪市の至宝、佐伯祐三「郵便配達夫」、モディリアーニ「髪をほどいた横たわる裸婦」

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2021年完成予定の「大阪中之島美術館」(完成予想図)、左手前のステンレス製モニュメントと建物は「国立国際美術館

以下の記事は、2011年に私が書いたもので、大阪市の北区は中之島にある国立国際美術館での「中之島コレクション」を見た時のもの。
この「中之島コレクション」は、大阪市が所有しているもののそれを展示する大阪市立の近代美術館の建設のめどが立たないままお蔵入り同然になっている至宝とも呼べるコレクションを展示する企画だった。また、国立国際美術館所蔵のコレクションも「中之島コレクション」として展示されていた。

その後時が経ち、大阪市立の近代美術館計画は「大阪中之島美術館」として現在建設中で、2021年度開館の予定である。

2021年以降大阪に来られたら、ユニバに行ったりたこ焼きを食べて大阪城の石垣に感動し、もしお時間に余裕があれば「大阪中之島美術館」や「国立国際美術館」や「東洋陶磁美術館」に足をお運びいただきたい。

 

2011年12月
国立国際美術館に職場からの帰りに立ち寄り、美術展「中之島コレクション」を鑑賞。
念願の佐伯祐三の「郵便配達夫」の実物との対面が、ようやく実現できた。

中之島の国際美術館は、金曜日だけ19時まで開館してくれていて、残業なしで退社すれば、ゆったり楽しめるのである。
あえて「中之島コレクション」情報をインプットしないで出かけたら、サプライズの連続であった。

ピカソカンディンスキーモディリアーニローランサンユトリロ、ダリ、キリコ、マグリットジャコメッティ(彫刻)、マン・レイ(写真)、ロスコ、デュシャン、ウォーホル、キスリング、佐伯祐三奈良美智など、巨匠たちの70点と出会うことができた。

会場をのんびり2周してしまった。

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佐伯の「郵便配達夫」(1928年)。

彼は三十歳で夭折してしまったが、この作品は亡くなった年の作品。エネルギッシュな筆の力は、80年経っても衰えることなく、日本からパリに渡った若者の作品にとても見えないところが、偉いのである。

高村薫も私も大好きな、まるで戸板のようなマーク・ロスコの作品などなど、近代アートがたくさん展示されていて、ポスターではなく本物や~とにんまりしながら見入ってしまった。

さて、このようなとても優れた作品を数多く持っている大阪市は、近代美術館をずっと建設予定なのだが、いまだにそれが実現していない。

時々今回のように、会場を間借りしてコレクションの一部を披露してくれる。ひょっとすると、新大阪市長誕生で、「近代美術館」の実現は夢と消えるかもしれない。
至宝渦巻く大阪市立「東洋陶磁美術館」も、彼なら売り飛ばしてしまうかもしれない、中国なら高い値段で買い取ってくれるだろうなぁ。

今回のコレクションの入場料は420円で、私が入場した時間帯の入場者はほんのわずか。
フランス語を話す感じのいい若いカップルが、私と同じ空間で鑑賞中だったが、あまりにも閑散としていて、作品がみなレプリカだと思ってはいないだろうかと、不安になった。

ともあれ、大阪市の洋の至宝をたっぷり楽しめた週末であった。
 

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「髪をほどいた横たわる裸婦」(1917年) アメデオ・モディリアーニ

タイトルは作品をそのまま表しており、何の説明も要らない。
佐伯祐三の「郵便配達夫」と並ぶ、近代美術館建設準備室の至宝である。

大阪の実業家の山本發次郎コレクションが寄贈されたことに端を発するのが、大阪市立近代美術館コレクションなのだという。

このモディリアーニの作品は、福島繁太郎というお方がパリで購入し、1934年(昭和9年)に東京日劇の展覧会で、デビューを果たした。
その後、大阪の山本家のコレクションに加わったという。

モディリアーニは、木彫りの仮面などに代表されるアフリカ美術に大きな影響を受けた。
彼の作品の特徴である首の長いシャープなフォルムの人物画は、そのあかしと言えよう。

この「髪をほどいた横たわる裸婦」は、モディリアーニの代表作にあげられる作品で、1917年当時、生活のために画商にすすめられて描いた一連の作品のひとつ。
この作品は、それらの裸婦像の中でもひときわ力強く、ここでもアフリカの大地の力を感じる。

遥か昔の昭和9年の展覧会で、この圧倒的な作品に見つめられた日本人は、何をどう感じたのだろうか。

 

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「道化役者と子供」(1905年) パブロ・ピカソ

ピカソの「青の時代」は1904年頃までで、1907年には、センセーショナルな「アビニヨンの娘たち」を発表し、キュービズムキュビスム)の創始者として、颯爽と歩いていくことになります。

この1905年の「道化役者と子供」は、青の時代からキュービズムへの移行期に描かれた作品です。
青の時代の象徴的なフォルムを残しながら、色彩は温かさを戻してきています。

おとなしい清楚な感じの作風ながら、その存在感たるや他を圧倒していました。
天才が発するオーラとは、このようなことをいうのでしょうか。

以前の展示で、この絵を見た観覧者が「これは本物ですか?」とキュレーターに尋ねたとか。さりげなく掲げられていて、無理もない疑問だと思います。

この作品は、国立国際美術館の所蔵品ですが、もし海外オークションに出れば、1億ドル近い値が付くのではないでしょうか。
同時期に描かれた「パイプを持つ少年」は、2004年のサザビーのオークションで、1億4百万ドルの値を付けましたので、下世話ながらそんなことを思うわけであります。

こんなピカソに出会えると思わないで出かけた美術展、とても充実した時間を持つことができました。