遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

SABU~さぶ~/三池崇史

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SABU ~さぶ~

原作 山本周五郎『さぶ』
上映時間 118分  35mmフィルム作品
名古屋テレビ放送開局40周年記念番組 2002年5月14日放送

年末に録画していた「SABU~さぶ~」を一家4人で鑑賞。原作は、言わずと知れた山本周五郎

江戸の経師屋(掛け軸などの表装を請け負う仕事)で修業をしている同年の二人、栄二とさぶが主人公。将来を嘱望される腕のいい職人で男気のある栄二と、生き方も仕事も不器用なさぶの物語。

ある日栄二は無実の罪を着せられて、人足寄せ場に送られる。人足寄場には、江戸中から札付きのワルが送られてくるのだが、そんな環境下でも栄二は降りかかる火の粉を払い続け、寄場から抜けられる日までを耐えて過ごし、自分を貶めた人間への復讐を誓う。

一方、さぶは栄二の無実を信じて疑わず、寄せ場に差し入れのために通うのである。二人で経師屋から独立して事業を始めることだけを夢見て、栄二の帰りを待ちながら一途に生きていく。

栄二に藤原竜也が配役される。当時19歳の演技としては必要にして十分で、大人びた栄二になりきっていて見事。また21歳の妻夫木聡は、顔から受ける印象がさぶとはイメージが合わない気がするが、さぶの純朴さは良く表現できている好演だった。

もし、さぶや栄二が現代に生きているサラリーマンだとしたら、間違いなく落ちこぼれ社員であろう。はめられた栄二は、荒波に耐えられそうな精神的マッチョのようで危ういもろさがあるし、いわゆる出来の悪いさぶは無条件に落ちこぼれ社員にカテゴライズされるだろう。しかし、さぶの純朴さには心を打たれる。妻夫木のさぶに今年初めてうるうる状態になってしまった。

世の女子は、妻夫木聡にうるうるするのではなく、彼が演じたさぶにうるうるしていただきたい。世の中がさぶのような人ばかりだったら、ちょっといろんな意味で停滞して大変かもしれないが、血液はさらさら状態で生きられると思う。

山本周五郎の小説が原作なので魅力的な作品に仕上がるのは当然にしても、三池嵩史監督のセンスは見事であった。細かい心理描写も、大胆なケンカのシーンもメリハリがあってリズム感があって、素晴らしかった。登場人物は、男も女も商人も罪人もみな印象的で忘れがたい。この監督は、映画が好きで映画に寄り添って生きてきた人間なんだろうなと、容易に想像できる演出である。

この作品は35ミリフィルムで撮られたテレビ用のドラマだが、フィルムの美しい特性が12年経っても失われておらず、アナログの魅力を再認識させられた。