2年前にノーベル医学賞を受賞した山中さんも同じだが、多くの人に役に立つことを目的とした絶え間ない努力は実に素晴らしく喜ばしいことだ。
少し話がそれるが、いま読んでいる新書が「絶望の裁判所」というタイトル。この本は、元裁判官が書いたわが国の裁判所システムの恥部と闇を扱ったノンフィクション。この本のレビューは改めて紹介することにするが、本書の気になるページなどをメモしているポストイットに、数日前に偶然私は「青色発光ダイオード 印紙」と思いついてメモをしていた。
中村修二さんが青色発光ダイオードの商品化を実用化して、巨万の富を勤めていた会社にもたらすにもかかわらず、中村さんは会社から2万円の報奨金をもらっただけだった。彼は、会社を相手取り2001年に200億円の訴訟を起こしたのだが、その訴訟の印紙の額が4000万円だった。もっと大きな額の訴訟を起こしたかったのだが、訴訟額に応じた印紙の額の限界が、4000万円だったようだ。東京地裁の一審では200億円の支払い判決が下ったが、その後中村さんは東京高裁に和解を提案されて、8億円余りの和解案を呑んだ。
中村さんの訴訟裁判にまつわる、会社の不誠実、裁判の印紙の額・長引きそうな裁判・高裁の和解提案の不条理などが、「絶望の裁判所」の内容の一端をあらわしているなと思いついて、私は「青色発光ダイオード 印紙」とメモをしていた。
それが一つ目の偶然。そして二つ目の偶然が、中村さんの生まれ故郷の愛媛でそのニュースを聞いたということ。
生まれてはじめて松山に逗留していた二日前にこのニュースが飛び込んできたので、受賞の喜びと、数日前の備忘メモと、ニュースを聞いた場所の偶然が重なって思い出深いものになった。
ノーベル物理学賞の日本人受賞者は、これまで多くを数えるが、今回の青色発光ダイオードの発見による受賞は、私たちの生活に密接に関連した受賞でとても身近に感じる。この発見によって「LED」照明の実用化が進み、天文学的なコスト削減やCO2排出削減につながっている。
LEDは、いまだにイニシャルコストはかさみ、製品製造時にCO2の排出が少なくないとは思われるが、消費電力や発行体の耐久力はかつての照明と比べると格段に改良されていて、一度設置されると長きにわたって節電(コスト削減、省エネ)が推進されることになる。この節電効果は、原子力発電所の施設数に換算すると相当数に上ると想像できる。
政府や電力会社が「原発を稼働しないと電気の需要に追いつかない」と言う前に、すでに世の中は信じられない速度で節電に向けて進んでいる。その代表選手がLED照明である。わが家も、2011年に点灯時間の長いリビング、ダイニング、キッチン、和室、玄関ポーチのライトにLEDを導入した。(計画的に電球11個をLEDに変えただけだが…。)
中村さんは200億円を手にすることはできなかったが、ノーベル賞を手にした。どちらが重いかは言うまでもないことだろう。