遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

リガの犬たち/ヘニング・マンケル

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リガの犬たち ヘニング・マンケル  柳沢由実子(訳) (創元推理文庫)

海岸に一艘のゴムボートが流れ着いた。その中には、高級なスーツを身につけた二人の男の死体。
共に射殺。いったい何者なのか? 
どうやら海の向こう、ソ連か東欧の人間らしいのだが……。
小さな町の刑事ヴァランダーは、思いもよらない形でこの国境を越えた事件の主役を演じることになるのだった!
話題の警察小説第二弾。

ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダーシリーズの第2弾「リガの犬たち」。
リガとは、ラトヴィアの首都のことだとこの小説ではじめて知った。
この作品はベルリンの壁崩壊直後の90年代初めに発表され、
当時のラトヴィアなどいわゆるバルト三国は、ソビエトから独立したばかりだった。

バルト海を臨む国々は、スウェーデンから時計回りに、
フィンランド、ロシア、エストニア、ラトヴィア、リトアニアポーランド、ドイツ、デンマークノルウェーとなる。
これらの国々は、顔を突き合わせたように丸くバルト海をとり囲んでいる。

刑事ヴァランダーの住む町の海岸線に、男二人の死体を乗せた国籍不明のゴムボートが漂着する。
この事件の捜査に、海の向こうのラトヴィアから一人の刑事が捜査にやってくる。
ラトヴィアから来たその刑事は、貧しくて堅苦しくて静かで優秀で、刑事の鑑のような人物だったのだが、
捜査を終え母国に帰った直後に何者かに殺害されたと、ヴァランダーのもとに連絡が入る。

ゴムボートの死体とその捜査官の死にはどんなつながりがあるのだろうか、
ラトヴィアの警察組織から要請を受けたヴァランダーは、
静謐で優秀な捜査官の死を無駄にすまいと、ラトヴィアにわたる。

寒い季節に独立間もない貧しくて危ない国に、自国の事件でもないのにヴァランダーは海を渡る。
私なら絶対にそんなことはしないのだが、彼のような刑事がいるから、
私たちはエンターテイメント(創作)小説を暖かい部屋で楽しめるのだと実感する。

リガの町で、事件の核心に着実に近づいていくヴァランダーには、
絶えず追手が影のように付きまとうのだが、なぜか決して彼を傷つけたり拘束しようとしない。
亡くなった捜査官のダイイング・メッセージともいうべき秘密のファイルのありかが分かるまで、
ヴァアランダーの命は担保されているのだった。

事件の首謀者から放たれた「犬たち」のターゲットは殺害されたラトヴィアの捜査官の隠された秘密ファイルと、
その秘密に最も近い存在のスウェーデンの刑事ヴァランダーの命であった。

ヴァランダーは前作であろうことか上司の女検事に恋してしまうが、
本作では、ラトヴィアの亡くなった捜査官の妻に恋愛感情を持ってしまう。
スーパーヒーローではない、一人の中年刑事の等身大の魅力が微笑ましくもある。

寒い国から来た寒い季節の熱い物語、暖かくして楽しまれたい。