遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

E.S.P./マイルス・デイビス

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ジャケットの女性は、フランシス・テイラーで、

当時のマイルス・デイビスの奥さん。

仲睦まじき写真に見えるが、実は彼らの生活はすでに破綻していた。

そのことは、マイルス自身が「マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ」

で次のように語っている。

「E.S.P」というレコードのジャケットの、オレが庭で彼女を見上げている写真は、

とうとう彼女が出ていってしまう一週間くらい前に撮ったものだ。

当時の、マイルスの私生活は破綻していたのだが、

音楽の方は絶好調であった。

もっとも、マイルスは生涯を通して、私生活は破綻し通しで、

しかし、彼の音楽はずっと絶好調だったのだが。


プレスティッジで録音していた1950年代半ば、

第一期クインテットは、マイルス以外のメンバーに

ジョン・コルトレーン(サックス)、レッド・ガーランド(ピアノ)、

ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)

を要して、歴史に残るアルバムを残している。



そして、その10年後の1960年代半ばには、

コロンビア時代の第二期クインテットが編成される。

泣く子も黙るメンバーは、

マイルスデイビス(トランペット)、

ウェイン・ショーター(サックス)、


ロン・カーター(ベース)、

トニー・ウィリアムス(ドラム)。


マイルスは、このバンドが一番好きで、思い入れのあるクインテットだったと言い、

メンバーひとりひとりの才能についても絶賛している。

彼らが後にひとり立ちしていく事は予想されてはいたのだが、

マイルスはいつまでもこの5人で演奏を続けたかったようだ。


このクインテットは、まだ十代のトニー・ウィリアムスの年齢をごまかして、

各地のクラブで、行列のできる迫真のライブ演奏を繰り広げていた。

コロンビアは、怠惰にもそのライブを録音することなく、

彼らの初レコーディングが、スタジオ録音のこの「E.S.P」であった。

まだまだメンバーの楽器はアコースティックで、

フリージャズとは一線を画す、きちんとメロディーが聞こえてくる、

斬新なのに上品で、緩急相取り混ぜたカッコいい演奏が詰まっている。

マイルスってこんな細かい音符が吹けたんだっけ、

とあらためて認識される向きもあろうかと存じる。

マイルス38歳、ショーター31歳、ハービー24歳、

カーター27歳、トニー19歳という、当時の年齢だけを見ても、なんともすごい連中である。


曲目リスト
1. E.S.P.
2. Eighty-One
3. Little One
4. R.J.
5. Agitation
6. Iris
7. Mood
録音1965年1月