遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

できそこないの男たち/福岡 伸一

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できそこないの男たち   福岡 伸一  (光文社新書)


映画「夫婦善哉」の、森繁久彌淡島千景が演じるところの男女を見ていると、

確かに男は「できそこない」にしか見えない。


NHKのBSのに「いのちドラマチック」という、生命科学バラエティ番組があり、

時々(放送曜日・時刻がよく把握していないので)面白く拝見している。

(独白:そうだ、定期的に録画しよう!)

番組司会が、劇団ひとり井上あさひアナウンサー、コメンテーターが福岡伸一

という、実に個性的な3人が進行する番組である。

恥ずかしながら、福岡伸一はこの番組を見るまで知らない人だった、

でも彼の独特の風貌とコメントの面白さに、妙なる好感度を持ったのであった。


で、例によって何かの書評で彼の著書に出くわして、さっそく購読。

それが光文社新書の「できそこないの男たち」であった。


「本来、すべての生物はまずメスとして発生する」、

なので、オスはメスのできそこないなのである、というのがこの本の基本テーマ。

本文にはないことなのだが、そういえば、私たち男に「乳首」は要らないはず。

なければ変なので付いているわけでもなく、処理に面倒なので付いたままになっているのかもしれない。

そもそも「生命の基本仕様(デフォルト)は、メス」なのである。

メスがメスの遺伝子を残していくだけで、生命は維持できるのであるが、

実際に昆虫などはその営みをいまも繰り返しているのだが、

多様性を持たしたメスの遺伝子を交わらせて、より強い種を維持していくために、

オスが作り出された。 

オスは、いわばおまけの生命体なのである。

なので私たち男は、短命で打たれ弱くて病気にかかりやすい種なのである。

女子を二人育てて感覚的には分かっていたが、

それを本書は広範囲に分かりやすく解き明かしてくれた。

いばりちらしている男にとっては、大きなお世話かも知れない好書なのである。


私は、こういう科学ものを読むことはあまりない文系人間なのだが、

読み始めてすぐ福岡の文章に魅了され、その導かれる世界にも魅了された。

生物を端的にあらわすと、「チクワ」のような管状の生き物であるという章などは、

学校で教えてくれなかった実に面白い解説なのであった。

また、DNAや遺伝子をめぐる専門的な知識が、ためになり面白くて身につき、

その世界中の研究者たちの「学術研究発表合戦」みたいな世界も実に面白くて、

ヒトの男がなぜ生まれてくるのかという、その原因となる遺伝子発見の話などは、

ヒトの男として生まれてきて実に興味深い話であった。


ヒトとして生まれてきて、実にくだらない社会を作ってきているある少数の特定のヒトもあれば、

そんな社会の片隅で、仮説を立てて実験を繰り返して研究している幸せなヒトたちがいることを、

普通の薄い幸せと暮らしている大多数のヒトとして垣間見ることの出来た、幸せの一冊であった。



「できそこないの男たち」
◎ 目 次
プロローグ
第 一 章  見えないものを見た男
第 二 章  男の秘密を覗いた女
第 三 章  匂いのない匂い
第 四 章  誤認逮捕
第 五 章  SRY遺伝子
第 六 章  ミュラー博士とウォルフ博士
第 七 章  アリマキ的人生
第 八 章  弱きもの、汝の名は男なり
第 九 章  Yの旅路
第 十 章  ハーバードの星
第 十一 章  余剰の起源
エピローグ   

◎ 著者プロフィール
福岡伸一(ふくおかしんいち)
1959年東京都生まれ。京都大学卒業。ロックフェラー大学およびハーバード大学研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授。専攻は分子生物学。著書に『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、『ロハスの思考』(木楽舍ソトコト新書)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書サントリー学芸賞受賞)、『生命と食』(岩波ブックレット)などがある。2006年、第一回科学ジャーナリスト賞受賞。