配給 東宝 公開 1955年9月13日
森繁久彌、11月10日で1周忌を迎える。
妻子がありながら芸者と駆け落ちをし、大店を勘当されるどうしようないぼんぼん息子森繁。
そんなどうしようもないぼんぼんを、芸者上がりのしっかりものの淡島が、
翻弄されながらも支えて面倒を見ていくという、大阪の人情話。
この作品に出てくる大阪の大店の厳しさは大変なもので、長男が道楽者ならばさっさと勘当して、
店を乗っ取られそうになって、森繁は実家に乗り込み慌てていろいろ画策するも、
そんな試みが成功するような男なら、勘当されるようなことにはならないのだから、
当然のことながら、何をやっても空振り続き。
道楽な息子がいなくなった大店だから、しっかりするはずなのである。
森繁久彌は、このどうしようもない、
しかし、哀愁と愛嬌を合わせ持った色気のある道楽息子を、見事に演じている。
彼は大阪で生まれ育ち、色気のある道楽息子の要素もあったのかもしれない、
軽快な大阪弁でカラッと明るい役どころを難なく演じているように感じさせるパワーは、
ここに森繁ありとの存在感を示せたと思う。
これを彼の代表作といわず何を代表作と言うのだろう。
ラストシーンの雪の法善寺横町で、
淡島に寄り添ってささやく「おばはん、頼りにしてまっせ」のせりふを言いに、
彼はこの世に生まれてきたのかもしれない。
淡島千景の艶っぽい役どころも素晴らしく、
大店をほったらかして彼女に入れあげる男の気持ちは、私にはとてもよく分かる。
後年の貫禄のある淡島しか知らない私には、実に新鮮に感じられた。
そして、大阪の雰囲気をスクリーンに描き出した豊田四郎にとっても、
この「夫婦善哉」が代表作となった。