遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

三越呉服店「春の新柄陳列会」/杉浦非水

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もうすぐタバコが値上がりするという、

買い溜めのための予約販売のお知らせを街頭で見かけた。

禁煙して2年になろうとする私には、関係のない話になった。

以前、タバコのピースのデザインのことを記事にしたことがあった。


タバコが廃れても、この平和の象徴はすたれないでほしいと願う。


さて、ローウィに先立って、1937年(昭和12年)、

タバコ「光」のパッケージデザインをしたのが、杉浦非水であった。


杉浦は、日本人初のグラフィック・デザイナーとされている人物で、

ご覧の三越呉服店の春の新柄陳列会のポスターで、センセーションを巻き起こした。


このポスターは、1913年(大正3年)に描かれたポスターである。

日本画家だった非水は、パリから黒田清輝が持ち帰った、

アール・ヌーボーのポスター、とりわけアルフォンス・ミュシャの作品に心を打たれた。

それからというもの、ミュシャ作品の模写に没頭し続けたという。

その結果、わが国オリジナルのアールヌーボー作品であり、

かつ、商業ポスターのさきがけとなった、三越のこのポスターが誕生したのであった。


中央斜めに座る女性、チューリップ、着物や帯の柄、壁の絵画、

ソファやクッション、テーブルや椅子、三越の垂れ幕など、

まさしく斬新な芸術、アール・ヌーボーである、新しい風が見える。

着物を売りたい呉服店にパリの香りがする、大胆なデザインである。

落ち着いていて、しかし、不安のかけらもない、みごとな配色である。


ほぼ100年前のこの上質なデザインと色使いに、感動してしまった。

ポスターの目的は、宣伝効果をねらったものでなければならないが、

当然にして、当時の三越の春の新柄陳列会は大盛況に終わったという。


せんだって、TV東京の「美の巨人たち」で、初めてこのアーティストを知った、

私にとっては、ミュシャより素晴らしい非水。

非水がいなければ、三越呉服店は百貨店とならなかったかもしれない。

三越の専属を辞めて、非水は多摩美術学校の創始者になったという。
 

この1枚のポスターが、その歴史をすべて物語っているといえよう。