遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ピースのパッケージ/レイモンド・ローウィ

イメージ 1

澄んだ濃紺をバックに、黄金の鳩がオリーブの葉をくわえ、純白で「Peace」と書かれた、何とも平和で端整なデザインは、昭和27年(1952)の4月にデザイン変更され発売された、ピースである。(オリジナルのピースは別デザインの箱で1946年(昭和21年)1月に発売されていた。)

私はもうタバコはやめたが、火をつけたタバコの私好みの香りのは、いわゆる「葉巻」と、「ゴロワーズ」というフランスのタバコである。一方、火をつける前のタバコの葉の香りはピースだけが好みであった。ピースに使われているタバコの葉は、ほかのそれと違って、相当上質のものが使われているのだと思う。あの葉の匂いがそれを物語っている。

この、ピースのデザインをしたのが、フランスに生まれ20代半ばでアメリカに渡ったデザイナー、レイモンド・ローウィである。
ローウィは、不二家(Fの筆記文字に花のデザイン)やナビスコラッキーストライクやシェル(黄色いホタテ貝)のロゴなどをデザインした人で、「口紅から機関車」まで広範囲の分野で活躍した。

なんでも、ローウィに支払われたピースの当時のデザイン料は150万円だったという。

因みに、昭和30年(1955年)の物価は、以下の如しであった。 
▼新聞(朝日・毎日・読売) 月極330円 一部売り10円
▼銭湯 大人 15円(東京)
▼映画入場料(東京封切館・邦画) 140円
▼タバコ ピース(10本入り)45円 ゴールデンバット(20本入り)30円
▼コーヒー(東京の喫茶店)50~100円
▼ビール小売り 大瓶 125円
▼そば もり・かけ(東京)30円
▼雑誌(中央公論)120円
▼辞典 900円
▼レコード 300円
▼自転車 15,700円
▼巡査の初任給 7,800円
▼総理大臣の月給 110,000円

破格のデザイン料を支払ったおかげで、ピースは3倍も売り上げを伸ばした。盛りそばが30円の時代の、150万円のデザイン料は、確かに破格であるが、売上が増大したことを思えば決して高くないと思う。

いいデザインのものは、いい商品であるという考え方が、この頃芽生えたのである。

50年を経ても、風格と威厳を失わない端正なデザインは、他の追随を許さないほど、存在感がある。
商業デザインの重要さは、ピースのデザイン改装にあたって、ローウィによってこの国にもたらされたのである。

そして、平和憲法が公布された1946年に、ピースは発売されたのである。
いまでこそタバコは蛇蝎のごとく嫌われる存在になっているが、当時は嗜好品の王様タバコの商品名として平和を希求した願いがピースに込められていた。

吸ってもよし、吸わないで、平和を希求してデザインだけ眺めておくのも善し。