オーロラの向こう側 オーサ・ラーソン (著), 松下祥子 (翻訳) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スウェーデンの作家夫妻マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーが書いた
「笑う警官」は、大人の国の大人の空気が漂う優れた警察小説だった。
「オーロラの向こう側」は、そのスウェーデンからやってきた、
女性作家の手になるミステリーで、これまた大人の国の小説であった。
作家になる前は、ストックホルムで税務関係の弁護士をしていた。
この小説の主人公レベッカは、そのラーソンの経歴とまったく同じ設定である。
【内容紹介】 ひさしぶりに聞いた故郷の町の名は、首都で働く弁護士のレベッカにとって、 凶事の前触れだった。北の町キールナの教会で若い説教師が惨殺されたのだ。 そのニュースが流れるや、事件の発見者で被害者の姉のサンナから、レベッカに 助けを求める連絡が入る。二人はかつては親友の仲であり、レベッカ自身もその 教会とは深い因縁があった。多忙な弁護士業務を投げ捨てて、レベッカは北へと 飛びたった……
宣教師殺人事件の捜査官アンナ=マリア・メラ、
彼女はまもなく産休に入る寸前で、この事件の担当になってしまう。
被害者の姉サンナ、
彼女は幼い娘たちとともに弟の死体の第一発見者。
記憶が定かでなくなる持病もあって、容疑者に最も近い人物に仕立て上げられる。
主人公レベッカ、
生まれた町の教会には二度と近寄りたくない過去があるのに、
サンナの助けの求めにウンザリさせられながら、北へ向かうために休暇を取るのであった。
この3人の愛されるべき女性を軸に物語りは進行する。
殊に作家の分身でもあるようなレベッカの心理描写は、
丹念に書かれていて印象的である。
故郷を石もて追われて、今では花の都で成功を収めつつある主人公は、
過去を清算するために、朝から晩まで弁護士として身を粉にして働く。
ヴォルヴォに乗っているし、H&Mのショップに行くこともなくなり、
一流ブランド品を身に付けて悠々自適で暮らしていたはずなのに、
それでも過去を清算しに北に舞い戻ってきた。
「今のあなたって、なんていうか、すごくしゃれて見える」サンナは言った。「それに なんだか自信があるって感じ。もちろん、昔からきれいな人だとは思っていたわ。でも、 今はまるでテレビ・ドラマから抜け出てきたみたい。髪の毛もすてきよ。わたしなんか、 ほったらかしで伸びるにまかせて、自分で切るんだから」 サンナは明るい金髪の豊かな巻き毛に指を走らせた。その様子には自信がうかがえた。 わかってるわよ、サンナ、とレベッカは怒って考えた。あなたは全国一の美人。それ も、ヘアカットや服に大金を注ぎ込まないでね。
こういう文章は男には絶対書けない、微笑ましいことだ。
女性作家の文章は、だから楽しい。
サンナにウンザリさせられながら、
それでもレベッカは、サンナと彼女の娘たちのために、
スカンジナビアの冬空の下、ハード・ボイルドに一人闘うのである。
この作品はスウェーデン語から英訳されたものを、
松下祥子が翻訳している。
このレベッカシリーズは、ハヤカワからその後2作が上梓されている。
お楽しみはこれからだ。