私が小学校4年生になったとき、
大学を卒業したばかりの先生が、私たちの担任になった。
彼にとっては私たちが人生で最初の教え子になった。
彼は東北は福島県の出身で、関西の国立大学を出て、
私たちの住む田舎町の教師になり、
小学校の近くの薄暗い安下宿に落ち着いた。
その下宿は1年くらいで替わったのだが、
私は下校時に何度か立ち寄ったことがある。
先生はまだ学校に居残っているのに、
鍵のかかっていない部屋に入るのを許されていた。
部屋のお菓子などは自由に食べてもよく、
買ったばかりの美術全集を、
裸婦の絵が多いことを気にかけつつ(私は10歳)、
自由に見ることを、許してくれていた。
私たちの世代の人間がそうであるように、私も好奇心の強い少年で、
いろんなジャンルの書籍や映画や音楽に、すでに興味を持っていたが、
この先生のおかげでそれらがますます好きになり、
加えて、美術のすばらしさに開眼した。
実を言うと、きれいな美術全集よりも、
先生の実際に描いた絵のほうがより楽しかった。
何枚かのカンバスに描かれた絵具のにおいのする油絵と、
表紙が紐綴じのデッサン帳を見るのが好きだった。
特に先生の描いたデッサン帳が好きで、
いろんな習作が描かれていて楽しくて、欲しくなるくらい好きだった。
私はこの先生に、結局3年間担任を勤めてもらい、
「仰げば尊し」を捧げて中学校へ旅立ったのである。
この先生と出会わなかったら、人生は少し違っていたかもしれない、
まだご健在である、私より12歳年長なだけである。
RCサクセションの「ぼくの好きな先生」を聴くたび
私の好きな先生のにおいを思い出す。
♪ぼくの好きな先生
ぼくの好きなおじさん
たばこと絵具のにおいのぼくの好きなおじさん
「ぼくの好きな先生」「雨上がりの夜に」「サントワマミー」の3曲が、
私のiTuneの忌野清志郎コレクションである。
いま永遠のコレクションになった。
合掌。