遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

無実/ジョン・グリシャム

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無実 (上・下)  ジョン・グリシャム (著)  白石朗(訳)(ゴマ文庫)

「無実」は、オクラホマ州のエイダという町で実際にあった冤罪事件の、ノンフィクションである。グリシャム、最初で最後のノンフィクション作品である。

 

やるせなくなるほど無能(×2)な警察官たちと、腹立たしいほどずさん(×3)で差別的(×3)な検察官と、涙が出るほど怠惰(×4)な科学捜査官たちと、想像力のまったく働かない裁判官と、公選という宿命と信じ難いほど低い報酬に支配され、手足の利かなくなった弁護人。

 

たまたま、エイダという町にはこういう人種が集まって、裁判を繰り広げているのか、アメリカ南部の田舎町では何の不思議もない一般的なことなのか。いずれにしても、恐ろしい裁判の記録が、グリシャムのペンによって白日のもとにさらされた。

 

スポーツ万能の元野球選手であったロンというエイダの町の名誉ある青年は、MLB選手の夢が破れたことで酒に溺れ、粗暴だということで目をつけられ、無実の罪で死刑囚にされてしまった。

 

その公判の模様から、彼の生還までの12年間の記録を、粘り強く追った力作である。

 

ロンの無実を証明するために奔走した弁護士集団は、イノセント・プロジェクトという正義のNGO。彼らは、DNA鑑定を武器にすでに200人を超える無実の人を救出した。この事実は、いかにずさんな冤罪事件が多発しているか、米国の実態を物語っている。

 

か弱い自由市民である私たちも、ずさんな捜査と自白強要のセットメニューによる冤罪事件は、日本においてもあとを絶たないことを認識すべきであろう。

 

さて、アメリカ南部の冤罪と聞けば、人種差別を連想されるかもしれないが、登場人物はすべて白人たちで、被害者以外はすべて実名で登場する。(私なら登場したくない)

 

ロンを貶めたビル・ピータースンという救いようのない検察官は、この作品の作者のグリシャムや、正義感あふれるイノセント・プロジェクトを、名誉毀損で訴えており、その公判も興味深いことである。

 

このベスト・セラーは、ジョージ・クルーニーが映画権を買い取ったと伝えられている。憎きビル・ピータースンは誰が演じるのだろう。クルーニー自身でもいいかもしれない。

 

映画を待たれてもよろしいかと思う。