アメリカはオクラホマ州アイダという町で、1982年に相次いで起きた若い女性の殺人事件を扱ったドキュメンタリー「無実 The Innocent Man」をNetflixで見ました。
この事件を扱った、ジョン・グリシャムが書いた「無実」というノンフィクションを私はかつて読んでいました。
本作は、ジョン・グリシャムをはじめ、無実の被告や無実の被告をでっち上げた検察官や警察関係者や、裁判官や弁護士や真相を究明しようとするジャーナリストたちなど登場人物がすべて動画で登場します。グリシャムの原作はほぼ忘れていましたので、とても興味深く鑑賞しました。
「検察や警察によって民主主義は破壊される」と最近誰かが言っていた気がしますが、まさにアイダの町の検察官と警察はこのことを実践していて、そのことを世に知らしめたのが、グリシャムとこのドキュメンタリーの制作者であります。
ビル・ピータースンという検察官は、グリシャムの「無実」の内容について名誉棄損の裁判を起こしましたが、グリシャムの主張を覆す証拠が見つからないまま訴訟を取り下げたという情けない結果についても、グリシャムの口から語られています。
犯人の取り調べ映像や、裁判の映像をはじめ、多くの証言者が登場しますが、「だれがウソをついているか・だれが正義漢か」というのは「表情や目の動きや落ち着き度」などで視聴者に伝わってきますが、実際の裁判での陪審員にはどう伝わったのでしょうか。
女性二人の殺害について、それぞれ4人の被告が裁判にかけられました。死刑判決を受けた元MLBの選手ロン・ウィリアムソン(上の画像右のスーツ姿の人物)は、あろうことか死刑執行の5日前にDNA鑑定による無実の再審判決を受けたのでした。
この恐ろしいでっち上げ逮捕事件は、1982年の米国の田舎町だけの話ではなく、その後の、たとえば日本の検察による不当逮捕にも見られる現象であることを再認識するものであります。
ということで、2008年に書いたジョン・グリシャムの「無実」の記事をここに再掲します。ロンの無実に至るまでの経緯の説明もしています。本書はAmazonでは中古本のみの取り扱いとなっています。
無実 (上・下) ジョン・グリシャム (著) 白石朗(訳)(ゴマ文庫)
やるせなくなるほど無能な警察官たちと、腹立たしいほどずさんで差別的な検察官と、涙が出るほど怠惰な科学捜査官たちと、想像力のまったく働かない裁判官と、公選という宿命と信じ難いほど低い報酬に支配され手足の利かなくなった弁護人。
たまたま、エイダという町にはこういう人種が集まって、裁判を繰り広げているのか、アメリカ南部の田舎町では何の不思議もない一般的なことなのか。いずれにしても、恐ろしい裁判の記録が、グリシャムのペンによって白日のもとにさらされた。
スポーツ万能の元野球選手であったロンというエイダの町の名誉ある青年は、MLB選手の夢が破れたことで酒に溺れ、粗暴だということで目をつけられ、無実の罪で死刑囚にされてしまった。
その公判の模様から、彼の生還までの12年間の記録を、粘り強く追った力作である。
ロンの無実を証明するために奔走した弁護士集団は、イノセント・プロジェクトという正義のNGO。彼らは、DNA鑑定を武器にすでに200人を超える無実の人を救出した。この事実は、いかにずさんな冤罪事件が多発しているか、米国の実態を物語っている。
か弱い自由市民である私たちも、ずさんな捜査と自白強要のセットメニューによる冤罪事件は、日本においてもあとを絶たないことを認識すべきであろう。
さて、アメリカ南部の冤罪と聞けば、人種差別を連想されるかもしれないが、登場人物はすべて白人たちで、被害者以外はすべて実名で登場する。(私なら登場したくない)
ロンを貶めたビル・ピータースンという救いようのない検察官は、この作品の作者のグリシャムや、正義感あふれるイノセント・プロジェクトを、名誉毀損で訴えており、その公判も興味深いことである。
このベスト・セラーは、ジョージ・クルーニーが映画権を買い取ったと伝えられている。憎きビル・ピータースンは誰が演じるのだろう。クルーニー自身でもいいかもしれない。