イタリア・ネオリアリズムの三大巨匠、
「自転車泥棒」は、そのデ・シーカの初期の名作。
戦後の貧しいローマで、ようやくポスター貼りの仕事にありついた主人公。
自転車でその仕事をすることが条件。
家中のシーツを質屋に入れて、代わりに質屋から自分の自転車を取り返す。
長い間失業中だった主人公。
時代のせいもあるだろうが、どうもそれだけが理由ではないような、
絵に描いたような「鈍くさい」だめ男。
真面目だけどだめ男のサンプルのような男。
その分、女房と息子がしっかりしているという、
まさにリアリズムの極致。
何をやってもだめ男は、大事な商売道具の自転車を盗まれる、
「自転車探し」と題しても良さそうな映画の始まりである。
自分の自転車を探して、乗り逃げした男を探して、
しっかり息子と2人で、戦後間もない貧しいローマの街を、往く。
演技の経験のない素人の父子役の二人を、
何とも自由に自然に街を彷徨させ、レストランで食事を摂らせ、
教会の祈りの場に紛れ込ませる。
そのデ・シーカの計算されつくした自然な映像作りに、感動する。
デ・シーカは「ひまわり」で、戦争で引き裂かれた男女を描いた。
見渡す限りにひろがるひまわり畑で、悲しみにくれるソフィア・ローレン。
敗戦で貧困の極みにあるローマの街を、
戦争の不条理を描いた、デ・シーカ渾身のこのふたつの名作、
私には同じ中心点で描かれた同心円に見えてくる。