遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

甘い生活/フェデリコ・フェリーニ

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甘い生活 La dolce vitaf
アヌーク・エーメ(27)、アラン・キュニー(51)、レックス・バーカー(39)
音楽 ニーノ・ロータ(48)
日本公開 1960年9月20日    上映時間 174分

録り溜め映画シリーズ、第二弾はフェリーニの「甘い生活」のレビュー。

イタリアの巨匠(フェリーニやデ・シーカやヴィスコンティなど)たちの撮ったオムニバス映画「ボッカチオ'70」で、フェリーニアニタ・エグバーグを起用した。私はそのアニタ・エグバーグと「甘い生活」の彼女とを混同していたことが今回分かった。どちらにしろ、その艶やかな役柄は同じで、本作の彼女は10歳若いだけのことだった。

主人公は、ローマのパパラッチ記者マストロヤンニ。彼は作家志望なのだが、作家のようなストイックな生活とは無縁の、複数の女性と浮名を流している男。その点は、実生活で浮名を流したマストロヤンニの等身大の主人公である。

主人公は、結婚を約束した恋人がいるが、アメリカからやってきた女優(エグバーグ)に接近したり、高貴な有閑マダム(アヌーク・エーメ)との関係を続けている。

主人公とその周囲の女性と、その女性の周囲の男たちを、退廃的な雰囲気でカメラは追いかける。例によって、くっきりとしたストーリのある作品ではない。しかし、描かれる老若男女のさまざまな個性や肖像は、歴史ある城郭や高級クラブや瀟洒な邸宅や朝の浜辺や夜のドライブウェイや敬虔な聖堂内などで丹念に描写されていて、各人が際立つ存在となっている。そこにいるのは退廃的な男女だけど、背景となるローマやイタリアの海岸が瀟洒なので、上品なフィルムに仕上がっている。フェリーニは40歳にして、すでに巨匠であった。

1953年のウィリアム・ワイラーの「ローマの休日」の対極に1960年の「甘い生活」がある。ちゃらちゃらと米国のツーリストがローマを紹介した「ローマの休日」に、フェリーニは憤っていたのかもしれないし、反対に、ワイラーへのオマージュかもしれない。いずれにせよ、フェリーニはお行儀の悪い男たちと女たちを、美しいローマに解き放った。

マリア様が出現する(聖母降臨)と大騒ぎになりたいまつをかざすシーンは、「隠し砦の三悪人」(1958年)を、その後に大雨が降るシーンでは「羅生門」(1950年)を連想した。ちなみに、フェリーニの好きな黒澤明作品は「羅生門」と「白痴」(1951年) だというが、その面影も「甘い生活」から見いだせるような気がする。

後に「男と女」の主演を務めたアヌーク・エーメや怪優アラン・キュニーはフランスから、スウェーデン生まれのアニタ・エクバーグやターザン俳優のレックス・バーカーはアメリカから参加、マストロヤンニの乗るトライアンフというスポーツカーはイギリスからの参加。ニーノ・ロータの音楽や、バチカンのサント・ピエトロ寺院やトレビの泉や高級クラブやホテルや街角は本物のローマである。

フェリーニは50代で「フェリーニのローマ」という作品を撮ったが、本作は40歳のフェリーニのローマでもある。