遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

キングの死/ジョン・ハート

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 キングの死   ジョン・ハート   東野 さやか (翻訳)  ハヤカワ文庫





著者のジョン・ハートは、1965年生まれの元弁護士、

彼は弁護士事務所を辞め、この自身はじめての作品「キングの死」を、

地元の図書館に1年間通い詰めて執筆したのだそうだ。


主人公は著者と同じ弁護士で、主人公の一人称で書かれた作品である。


主人公の父親が、これまた弁護士で、

資産家で大金持ちで、社会的地位は申し分ない男、

しかし、家庭内ではどうしようもない暴君、絶対的君主であり、

まさに「キング」である。


その主人公の父親が失踪して1年半後、死体で見つかり、

父親殺しの容疑者の嫌疑が、その長男である主人公にかかるところからこの物語は始まる。


繰り返しになるが、主人公の一人称で語られている作品であるから、

読み手は彼が犯人でないことが手に取るように判る、

そして、自分の妹が犯人ではないかというある確信から、

主人公の聖戦が始まるのである。



友人だと思っていた検事を敵に回し、

切れ者女刑事との精神的壮絶バトルを展開し、

幼なじみで結婚後も関係を続ける天使のような恋人の心を傷つけ、

若き弁護士としては理想的な麗しくセクシーな妻と軋轢を起こし、

たった一人残った家族である妹とそのガールフレンドに、

父親に似ているということから、徹底的に無視され、

そんな四面楚歌のなか、

主人公は自分の無実の証明のために闘うのである。




画像の表紙、

階段の上に君臨するのがキング(父親)であり、

階段下の左腕は、(主人公とその妹の)母親の腕である。

この表紙が象徴する「華麗なる一族」の、物語である。



人は何に寄り添って生きるべきなのかを考えさせてくれる、

感動の大河ロマン&ヒューマン・ミステリである。



著者は、作家に転職して多くの読み手を救うことになるのであろう。