推し、燃ゆ 宇佐見りん (著) 河出書房新社
先月、164回の芥川賞を受賞したばかりの宇佐見りんの「推し、燃ゆ」を読了。
表紙の雰囲気は私向きではないと感じていたのだが、書評に取り上げられたり文学系YouTuber界隈で好評だったので、芥川賞候補になる前に図書館予約しておいたら、受賞後間を置かずに読みはじめられた。今は、わが図書館ではすごく長い待ち行列になっていて、巷ではベストセラーの上位に顔を出している。
主人公は女子高生。彼女は、一人の「推し」アイドルを応援していてバイトに励んでコンサートに出かけCDを購入、「推し」の発する言葉や彼にまつわるグッズや彼の発した言葉などを蒐集し続ける。それらの蒐集物を分類し分析し記憶し、「推し」のまなざしを捉えて離さず彼の頭の中(心の中)にまで入っていく。
アイドルにワーキャー騒いでいるというよりも、「推し」と同化するように深くはいり込んでいれ込んでいるファンなのであった。「推し」を心の中に飼っている人間をヲタクというのかもしれないが、よく知らない。
私はそもそも「推し」の意味がわからなかったし、「推し、燃ゆ」というタイトルで何も想像できなかった。文体は、慣れるまでは読みにくかった。まるで詩のように心にいろいろ引っかかる文章が次々と現れ出でて、作品と無関係の私の個人的なことに心が囚われていく。なので、かなり短い作品なのに読了まで時間がかかったが、それは長く楽しめたと言ってもいいだろう。
読み手の心にいろいろ引っかかる、というのは素晴らしいことだと思う。
本作は、女子高生の一人称で書かれている。「推し」や友人や家族やバイト先の客のことなどを、女子高生に近い21歳とはいえ作家が表現しているので(実際に書いたのは19歳のころらしい)、ヲタクの女子高生の一人称とは少しギャップがあるはずで、つまりは宇佐見りんという若くて立派な作家の一人称なのだった。
作家は女子高生の一人称で、その女子高生を相当深く客観的に私たちに示してくれた。それは簡単なことではないと思う。
途中で、ああこの女子高生は…と気付いたのだが、彼女は結局は立ち上がり再生する兆しが見えてきて、じわーっと暖かくなってくるのだった。
私は本書を図書館で借りたのだが、ずっと持っていて時々読み返すもいいと思う一冊だった。