メインテーマは殺人 アンソニー・ホロヴィッツ, 山田 蘭 (訳) 創元推理文庫
「カササギ殺人事件」に続くアンソニー・ホロヴィッツの、犯人捜し本格ミステリー「メインテーマは殺人」を楽しく読了、充実感に満ちて幸せに読了。
本作には、「ホーソーン登場」というタイトルをつけたがった元刑事のホーソーンという私立探偵が初登場する。
著者のアンソニー・ホロヴィッツ自身がワトソン役になり、ホームズならぬホーソーンの名探偵物語を一人称で語るシリーズが本作から始まる。次作「その裁きは死」が本邦でも出版済み。
シャーロキアンには叱られるかもしれないが、二人はまるでホームズとワトソンのデコボココンビのように縦横無尽に活躍し、ホロヴィッツのコナン・ドイルへのオマージュに満ち溢れている。
さて本作は、不思議な設定で物語が始まる。
資産家の女性が、自身の葬式の手配を済ませたその日に何者かに殺されるのだ。こんな魅力的な「つかみ」なのだが、悩ましくて楽しい犯人捜しで最後まで読み手はミステリアスな展開に鷲づかみにされるはず。
被害者は英国の劇場の理事も務めるセレブで、彼女の息子は英国の舞台で名を上げ、いまやハリウッド在住の俳優で、本作は英国の演劇業界が中心に据えられている。
しかし、登場する英国のさまざまな階層の人やその住まいや生活環境やライフスタイルなどが幅広く興味深く描かれていて飽きさせない。ハリウッドの超有名監督・製作者二人も実名で登場し、ホーソーンとホロヴィッツとの絡みも用意されている。
また、「いかにも」という犯人らしき人物が次々と登場し、ドイルのホームズというよりも、アガサ・クリスティのような作風も漂ってきてこれまた懐かしい。(ポワロには長らく会っていないなぁ)
ということで、これ以上はネタばれになるので物語の本筋は何にも書けないが、随分前から私は犯人探しミステリが好みではなくなっていたのに、ホロヴィッツのおかげでそうでもなくなりつつある。
「カササギ殺人事件」より短くて曲りくねっていない道は歩きやすくて、それに寄り道も楽しいのだった。